泥がついたロータリーの爪。農機具の減価償却と修繕費は稲作の固定費の中心

農機具の減価償却だけで年500万円|米価が下がっても機械代は下がらない

2026年9月10日(木)

農機具の減価償却だけで年500万円|米価が下がっても機械代は下がらない

農業コラム|農機具のコスト

作付30ヘクタール規模の稲作経営で、農機具の減価償却は年に約490万円。修繕費まで足すと776万円になります。

米の値段の話は、流通や政策の話になりがちです。ただ、農家の帳面をいちばん重くしているのは、穫れても穫れなくても毎年出ていく機械のお金でした。国の生産費統計と、全国の農業委員会が答えた受託料金調査から、その額をたどってみました。

扱うのは、減価償却と修繕費の実額、規模で変わる重さ、作業委託の相場、そして機械に頼らない小さな畑のつくり方です。
泥がついたロータリーの爪。農機具の減価償却と修繕費は稲作の固定費の中心

農機具の減価償却だけで年に約500万円

作付42ヘクタールの経営を統計から積み上げる

農林水産省の令和6年産米生産費(個別経営体)には作付規模ごとの内訳が載っています。作付30ヘクタール以上の層は56経営体で平均作付面積は42.5ヘクタール。この層の農機具費は10アールあたり18,264円で、内訳は減価償却費11,592円と修繕費および購入補充費6,672円です。

42.5ヘクタールに引き伸ばすと減価償却費だけで年およそ492万円。修繕費まで含めた農機具費は約776万円。倉庫や乾燥施設などの建物と軽トラックを含む自動車の償却も足すと償却費の合計は約655万円になります。

この金額は猛暑で収量が落ちた年も米が値下がりした年も同じように出ていきます。肥料や燃料は使う量を減らせば少しは減りますが償却費は減りません。

同じ統計にはこの層が実際に使っている機械の台数も出ています。10経営体あたりの台数は50〜80馬力の乗用トラクター21.2台・100馬力以上4.0台・8条以上の田植機14.0台・6条以上の自脱型コンバイン11.5台・循環式の乾燥機30.0台。1経営体に直すと大型トラクターを2台と乾燥機を3台抱えている計算になります。

台数が増えるのは田んぼが散らばっているからでもあります。この層の1経営体あたりのほ場枚数は185.8枚で団地の数は12.8か所、ほ場のあいだの距離を合わせると6.7キロ。1台で全部を回そうとすると田植えも稲刈りも適期を外します。

作付30ヘクタール以上の稲作経営(平均42.5ヘクタール)の機械まわり
農機具の減価償却費10アール 11,592円 → 年 約492万円
農機具の修繕費・購入補充費10アール 6,672円 → 年 約283万円
農機具費の合計10アール 18,264円 → 年 約776万円
建物・自動車も含めた償却費10アール 15,430円 → 年 約655万円
この層の集計経営体数56経営体(令和6年産)
農林水産省「令和6年産米生産費」(個別経営体・全国)の作付規模別10アール当たり数値に、同表の平均作付面積4,247.1アールを掛けて算出。

7年で割り切るという決まりごと

減価償却は買った年に代金を全部落とすのではなく使える年数に分けて費用にしていく処理です。国税庁の耐用年数表ではトラクター・田植機・コンバイン・乾燥機はまとめて「農業用設備」に入り、法定耐用年数は7年。機械ごとにばらばらだった年数が平成21年分から一律になりました。

1,000万円のコンバインを入れればその先7年間は毎年およそ140万円が費用として乗ります。田植機・乾燥機・トラクターのそれぞれで更新の時期がずれてくるので償却の山は途切れません。稲作の機械が実際に動くのは年に数日から十数日。動いていない350日ぶんも費用は同じ速さで進みます。

POINT
償却費は「今年出ていったお金」ではない
全国平均で見ると、10アールあたりの費用合計117,744円のうち22,423円が償却費です。帳面の上では費用でも、その年に財布から出ていくわけではありません。逆に言えば、機械を買った年に払った現金は、その後7年かけて費用として回収していく前提になります。途中で米価が崩れると、この前提が狂います。

償却が終わっても修繕費は消えない

農機のボルトをスパナで締める手元。償却が終わっても修繕費は毎年かかる

農機具費の3分の1は修繕にまわる

全国平均(個別経営体)の10アールあたり農機具費26,223円は、償却費17,858円と修繕費および購入補充費8,365円に分かれます。修繕費が農機具費のおよそ3分の1。肥料費10,977円や農業薬剤費8,412円と肩を並べる額が機械の手当てに消えています。

しかも修繕費は償却が終わった古い機械ほど増えます。ゴムクローラ・刈刃・ベルト・ベアリング・油圧ホース。ひとつひとつは数千円から数万円でも稲刈りの最中に止まればその日の段取りが全部ずれます。雨の合間を縫って刈る作業では1日の遅れが品質の低下に直結します。

10アールあたりの主な費目(令和6年産・個別経営体・全国平均)
農機具費26,223円(償却 17,858円/修繕 8,365円)
労働費34,665円(うち家族労働費 31,615円)
賃借料および料金11,897円
肥料費10,977円
農業薬剤費8,412円
光熱動力費5,845円
費用合計117,744円

農家が買うものの中で機械はいちばん重い

農林水産省の農業物価指数は農家が買う資材の値段を測るときに費目ごとの重みを決めています。令和2年基準では全体を100としたときの農機具の比重が13.26。肥料の7.76や光熱動力の8.50より大きく畜産をのぞけば最大の項目です。機械の値段が上がると農家の支出はまとめて押し上げられます。

倉庫でシートをかけたまま冬を越す機械にも償却費は同じ額だけ乗り続けます。使う日数が少ないほど1日あたりの機械代は跳ね上がります。

倉庫でシートを掛けられた農機のタイヤ。使わない期間も減価償却は進む

小さい田んぼほど機械代は重くなる

10アールあたりで1.9倍の差がつく

同じ生産費統計を作付規模で並べると機械代の重さがはっきり分かれます。10アールあたりの農機具費は作付0.5ヘクタール未満で35,260円、30ヘクタール以上で18,264円。1.9倍の差です。

理由は単純で機械の値段は面積では変わらないからです。コンバイン1台の買値は5反で使っても40町で使っても同じ。その代金を割り算する分母だけが違います。60キロあたりの全算入生産費で見ると0.5ヘクタール未満が27,217円、30ヘクタール以上が10,729円。2.5倍以上ひらきます。

それでいて売れる値段はほとんど変わりません。同じ統計の60キロあたり粗収益(主産物)は0.5ヘクタール未満で19,145円、30ヘクタール以上で20,389円。コストは2.5倍違うのに売値は6%しか違わない。ここが小規模稲作の苦しさです。

規模を上げれば素直に軽くなるかというとそうでもありません。10アールあたりの農機具費がいちばん高いのは0.5ヘクタール未満の35,260円ですが、その次が1〜3ヘクタール層の32,420円で0.5〜1ヘクタール層の28,525円を上回ります。0.5〜1ヘクタール層は作業の多くを人に頼みます。1〜3ヘクタール層は自前でひと通り揃える。揃えたところで代金を割る面積が足りていません。

小さい経営(0.5ha未満)
10アールあたりの機械まわり
  • 農機具費 35,260円
  • 賃借料および料金 27,135円
  • 合計 62,395円
  • 60キロあたり全算入生産費 27,217円
大きい経営(30ha以上)
10アールあたりの機械まわり
  • 農機具費 18,264円
  • 賃借料および料金 6,340円
  • 合計 24,604円
  • 60キロあたり全算入生産費 10,729円

持っていても借りていても払っている

見落とされやすいのが賃借料および料金の欄です。作業を人に頼んだ料金や機械を借りた料金が入ります。0.5ヘクタール未満の層はここに10アールあたり27,135円を払っていて、30ヘクタール以上の6,340円の4倍を超えます。

つまり小さい経営は自分の機械を持ちながら足りない作業は人にも頼んでいます。農機具費と賃借料を足すと10アールあたり62,395円。30ヘクタール以上の層の24,604円と比べて2.5倍です。「買わずに頼めば安く済む」という単純な図式には統計上なっていません。

頼めば済むとはならない。作業委託の値段

刈り取り後の田んぼの株元と泥に残るタイヤ跡。作業委託の料金は上がり続けている

全面委託は10アールあたり9万4,637円

全国農業会議所が毎年全国の市町村農業委員会を通じて受託料金を調べています。令和7年調査(1,434地区が回答・令和8年9月公表)では個人農家に頼む水稲の全面作業受託が10アールあたり94,637円。種籾・除草剤・肥料・農薬代を委託する側が持つ場合でも70,932円です。いずれも税抜。

部分作業だと耕起から代かきまでが16,724円・機械田植が8,522円・機械刈取が19,405円で、刈取から乾燥・調製までの一貫作業が36,308円。地域差もあって資材費別の全面受託は大都市の通勤圏で81,093円、農山漁村地帯で65,002円でした。

埼玉県美里町が公表している標準料金では水稲の全面受託が10アールあたり105,900円(税込・資材別)で、コンバインでの刈取はほ場整備地区で21,700円と未整備地区で29,000円。機械の回送だけで片道3,300円かかります。福井県農業会議の令和8年版標準料金でも耕起から色彩選別の手前までを積み上げると71,700円で、前年の69,200円から上がりました。

! 小さい田んぼには、割増がつく
福井県農業会議の標準料金は、おおむね30アール以上の区画を前提にしています。30アール未満なら5〜10%、20アール未満なら10〜20%、10アール未満なら20〜30%の加算。機械が旋回する回数が増え、畦際の手作業が増えるためです。区画が小さい田んぼほど、持っても頼んでも割高になります。

委託料は上がり米価は4割下がった

受託料金は前年比でおおむね1〜4%の上昇でした。オペレーターの賃金もトラクターで1時間1,556円と2.4%上がっています。燃料も部品も人手も値段が下がる要素が見当たりません。

その一方で2026年8月18日に全農にいがたが2026年産の一般コシヒカリの概算金を玄米60キロあたり18,500円と決めました。2025年産の当初3万円からおよそ4割の下落。魚沼産で21,000円です。在庫の積み上がりが理由と報じられています。

新潟の概算金と埼玉の標準料金を並べた粗い試算になりますが、10アールで500キロ穫れたとして60キロ18,500円で換算すると約154,000円。ここから美里町の標準料金で全面委託すると105,900円が出ていき手元は48,000円ほど。肥料・農薬・種苗・土地改良水利費を全国平均で見積もると28,000円前後かかるので残りは2万円。実勢の地代(全国平均で10アールあたり12,746円)を払えばほとんど残りません。

令和6年産の家族労働報酬を1日あたりで見ると0.5ヘクタール未満の層が436円、30ヘクタール以上の層が118,671円でした。米価が高かった年の数字です。機械代を割る面積があるかどうかがそのまま日当の差になって出ています。

同じ米でも令和6年産の全国平均では60キロあたりの粗収益20,118円が全算入生産費15,814円を上回っていました。赤字だったのは1ヘクタール未満の層です。米価が高かった年ですらそうでした。2026年産はその米価が4割下がりました。値段の決まり方そのものはこちらの記事にまとめてあります。

機械を持たない畑のつくり方

土の上に置かれた手鍬・三本ぐわ・移植ごて。小さな畑なら手道具で足りる

100坪までなら手道具で足りる

面積あたりの機械代は広げるほど下がります。裏を返せば広げられないなら機械を持たないほうがいい。家庭菜園や小さな市民農園なら答えははっきりしています。

100坪くらいまでの畑は平鍬が1本あればだいたい回ります。耕す・畝を立てる・土を寄せる・溝を切る。この4つを1本でこなせる道具は他にありません。数千円で買えて柄を替えながら20年使えます。償却も修繕費も考える必要がない世界です。使い方はこちらの記事にまとめました。平鍬と備中鍬と唐鍬の違いはこちらで比べています。

美園ファーマーズ倶楽部(MFC)の畑でもはじめて来た方に最初に渡すのは鍬です。土の重さと刃が入る角度が分かると機械が何を肩代わりしているのかも分かります。

草は刈る場所と刈り方を決めておく

小さな畑でいちばん時間を取られるのが草です。福井県農業会議の標準料金では畦の草刈りが100メートルあたり4,300円。機械を持てば燃料と刃の消耗が乗ります。持たなければ料金がかかります。

100坪ほどの畑なら草刈り鎌1本で30分ほど。刈る場所は通路と畦際に絞ります。根から抜かずに地際で刈って草はそのまま畝の上に敷きます。抜くより刈るほうが早いうえに敷けば土の乾きも抑えられます。

耕す回数を減らすという削り方

機械を使わずに済ませるにはそもそも耕さない設計にするのが早道です。通路と畝の位置を毎年変えないでおくと踏み固める場所が固定されて畝の中はやわらかいまま冬を越します。春に土をひっくり返す作業が表面をならすだけで済むようになります。

道具を買うときは税金の扱いを知っておくと選び方が変わります。10万円未満のものは買った年に全額を経費にでき、10万円以上20万円未満なら3年で均等に分けられます。青色申告をしていれば30万円未満のものを年間300万円までその年の経費に落とせる特例もあります。鍬や鎌はもちろん小型の管理機くらいまでなら7年の償却表とにらめっこせずに済みます。

CHECK LIST 機械を増やさずに畑を回すための5つ
1通路と畝の位置を固定する:踏む場所を決めると、畝の中は締まりません
2刈った草と落ち葉を畝に戻す:土が硬くならず、耕す回数が減ります
3面積を欲張らない:手が回る広さに絞るほうが、収穫量はかえって増えます
4作物の種類を絞る:管理の山が重なると、道具を買って解決したくなります
5手のかからない作物から始める:品目選びはこちらの記事が参考になります

大規模の稲作と家庭菜園では桁がまるで違いますが悩みの構造は同じでした。面積あたりの固定費をどこまで下げられるか。42ヘクタールの経営が年776万円の機械代と向き合っているのと100坪の畑で鍬1本にするかどうか迷うのは、地続きの話です。

参考・出典
※ 本記事は2026年9月9日時点で公表されている資料にもとづいています。概算金は最終的な精算価格ではなく、出荷時に前払いされる金額です。
MISONO FARMERS CLUB

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