【第3回】農耕と資産形成


クラフトとして見る農業の一面

原初の農耕から、生産効率や量の安定的供給を目指した「農業」への転換は、人類の偉大な英知の一つで称賛すべき技術の粋を集めたものです。しかしながら、自然の摂理には従い、時には作物を得るために(環境とのバランスを考慮しながら)経験値で積み上げた知恵を働かせて自然と対峙する「農耕」に、依然として私は憧れを抱きます。いわゆる「手仕事」、例えば手作りの工芸品などが似ていますが、代々引き継がれてきた技を承継し、それを現代でも評価される付加価値に高めて作り上げて行く。そこには、ファストファッションなどに代表される迅速で安価な大量生産品とは対照的な世界が存在します。どちらかだけが良い訳ではなく、両者のバランスが大切です。

「投資」と「投機」

更に、次世代へ継承していく資産の形成という意味でも、貴重な側面が有ります。資産形成には、投下する資金運用の考え方として「投資」と「投機」が有ります。前者は、将来の付加価値を生む資産に資金を投入し、その付加価値に応じたリターンを得ることが可能なプラスサムゲーム。例えば株式の場合、事業が成功して成長することによる利益の増大が対価としてのリターンとなる訳で、当初の「投資」資金が利益の源泉です。一方の「投機」では、同じ株式に対して同じタイミングでのプラス評価による「買い」とマイナスの評価による「売り」を繰り返して“儲けの額と損の額が等しい″ゼロサムゲームです。なので、「投資」は損する人を必要としないプラスサムゲームとも呼ばれます。

農業はプラスサムゲームの「投資」である

実は、農作物の生産は基本的には植物のタネと太陽・水・空気・土および農作業によって、プラスの生産物を得られる「プラスサムゲーム」なのです。しかも作物から採取できるタネを使って再生産が可能な「循環型でサステナブル」な営みです。(現代「農業」の場合は、殆どが一代限りのタネを仕入れて生産するので循環せず)工業的生産方法にシフトするスマート農業(AI化)には、増大する世界人口を養う重要な意義が有る一方、根源的な「農耕」を基盤としたクラフト化(小規模、地域性、独立)による営みは、人々の共感や信用(「食」の場合は、安全・安心も特に重要)を獲得しながら今後も発展して欲しい事業ではないでしょうか。

MFCの役目

コロナという計り知れない未曽有の試練に直面し、食料危機を誘発するかも知れず、世界が変わるしかない。先進国の日常で頻発する「買い溜め」など、平時の理性では制御しきれない〝情報によるパンデミック″に個々人が対処できること、それは誰かの損を顧みない利己的な行動ではなく、現物資産である農作物を自から農耕によって生産、または共感する生産者に「投資」となるよう関与することが、次世代へ命を繋いで行く(ジェネラティビティ)と確信しています。


美園ファーマーズ倶楽部(MFC)では、農耕技術やポジティブ心理学、リスク管理の専門家などが発起メンバーとなり、農を起点としたデュアルライフ事業を立ち上げました。そしてまさに自ら生産し、共感する農家さんとパートナーを組んでいます。先ずは農作業の営みや考え方を知る「ちょこっと農業体験」に参加してみては如何でしょうか。



「奪い合えば足らず、分け合えば余る」 相田みつを:作


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