【第4回】心身の健康を保つ 土に触れる生活の薦め  


過剰清潔社会の弊害

土壌に生息する細菌が抗炎症や免疫調節、ストレス耐性などの性質があるという研究結果を米国の研究チームが発表しました。花粉症をはじめとするアレルギー、ぜんそく、自己炎症性疾患、ストレス関連からくるメンタルヘルス障害の原因のひとつとして、すべてのものに抗菌剤を使用する「過剰清潔社会* 」が疑われていますが、わたしたちが泥や土に触れる生活から離れたことも影響していると示唆されている。われわれ人間の大部分が農業や狩猟採集生活から遠ざかり、都市部で暮らしている。生活はより便利になりましたが、同時にわれわれの健康に貢献してくれる微生物との接触からも遠ざかってしまいました。

知られざる土いじりの効能

学術誌「Psychopharmacology」で発表された論文*によると、土壌に生息する腐生性細菌マイコバクテリウム・ヴァッカエ(Mycobacterium vaccae)には、抗炎症、免疫調節、およびストレス耐性の性質があることがわかってきました。そしてこれらの保護効果は、この細菌が持つ特殊な「脂質」が要因のひとつであることが今回の研究で明らかになったとのことです。ラウリー博士は過去にも、「健康的な微生物」に触れる生活と、メンタルヘルスの関連性を裏付ける数々の研究を発表しています。泥やホコリにまみれる環境にある農村の子どもたちや、ペットとともに育った子どもたちは、ペットのいない都市部の住人よりも強い免疫システムをもっており、精神疾患のリスクが低い傾向があるのだそうです。もしかすると、自然が提供する微生物叢から断絶された生活を送る人々が、長いあいだ心身の健康を維持するのは難しいのかもしれません。近い将来、マイコバクテリウム・ヴァッカエをベースにした「ストレスワクチン」の研究開発を期待したいものです。
参照:http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&t=6&k=2&m=347006

暮らしに土いじりを取り入れてみる

急激な社会構造の変化に適応しきれず、強いストレスを感じている労働者は増加傾向にあります。メンタルヘルス不調は、生産性低下や離職の原因にもなるため、企業にとっても関心の高い問題となっています。メンタルヘルス不調者を予防する意味でもまた休職中のメンタルヘルス不調者の対策の一つとして土に触れる生活を取り入れることは重要と言えます。会社での仕事一辺倒ではなく、週末には畑に出向き、土に触れることで自分の心身の健康につなげていけることをお薦めする。


注釈

*ヒトの体のなかに棲む微生物の集合体、マイクロバイオーム。わたしたちが働くオフィスも、大量の微生物に囲まれたひとつの巨大なマイクロバイオームだ。閉めっぱなしの窓や機械任せの換気、行き過ぎた潔癖主義は、この微生物群を変化させ、あなたの健康に悪影響を与えているかもしれない。
*Psychopharmacologyvolume 236, pages1653–1670(2019)

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