野菜たちの生存戦略(サバイバル)

2021年4月18日(日)

野菜たちの生存戦略(サバイバル)



こんにちは、モリモリです。
今日はリアルは畑作業から少し離れて、野菜を生物学的な切り口から見た話をしようと思います。このコラムを読めば野菜も人間も本質は違わない、この地球に生きる生命であり、みな命のやりとりの中で生きているということがわります。


主役はだれか?

野菜は私たち人間にとっては食べるものであり、栄養を補給してくれるものです。一方で、野菜を主人公にして考えると、成長するために呼吸をし子孫を残すためにタネを作り分身を作っています。まさに生きて、その遺伝子を脈々と継いでいっているといえます。



人は野菜とともに共存し、野菜の成長をサポートし、その分け前を自然の恵みとして頂いているだけなのです。逆を言えば、人間は野菜の生存本能である「種の繁栄」を一部断ち切って、それを食べることで人間も種を繋いでいくという、現実の中で生きているのです。



どうやったら生き延びられるか?

野菜たちはどうやって生き延びていこうとしているのでしょう?2021年始は寒波がやってきて畑の作物は凍害でしおれてしまいました。そのため野菜が高騰した時期があります。



私の畑でも、早朝行ってみると霜が降りて、葉が真っ白になっていました。ネギや縮みホウレンソウは体内の糖分を凝縮させることで、細胞が凍らないように凍点を下げています。人間は植物のこの生存戦略をうまく利用して甘みのある収穫物を得ているのです。



植物としての子孫を残すためには、花を咲かせて実をつけ、実が熟すとタネを落とします。これは古代から繰り返してきた命の営みです。畑も野原も春は白い花や黄色い花でいっぱいになりますが、普通に見えるこの光景は、季節のめぐりによるものです。



つまり植物たちは一定期間あえて寒さに当たることで花を開かせる力を蓄えて、花を咲かせているのです。例えばイチゴは、寒さを経験した後の蓄積温度によって花を咲かせて実を付けます。自然界では春の味覚なのですが、クリスマスケーキに飾ってあるイチゴは、冷蔵庫等で低温処理をして栽培しているのです。生き残るために花を咲かせようとして人がイチゴに勘違いをさせているのです。




クリスマスケーキに乗っているイチゴはある意味人間のエゴによって生まれたといっても過言ではないでしょう。



植物の種類によって、必要な寒さの程度や温度は異なりますが、どんな植物も冬を経て春になると花を咲かせてタネを残します。タネにはそれぞれ発芽適温がありますので、温度を逆算し発芽に適した時期にタネができるように花を咲かせているのです。



イモをつくる植物は、種子繁殖ではなく栄養繁殖によるコピー、つまり「クローン」で個体を複製していきます。したがって遺伝子は同一のもになります。もともとの原産地では花を咲かせることが多いようですが、原産地から離れた土地では、遺伝子をコピーすることによって効率的に命をつないでいきます。しかし効率的に量は増やせる半面、遺伝子構造が同じなためウイルスなどの外的要因には弱くなっていきます。



奥が深いです。昨今、遺伝子組み換え作物が危険視されているのも、生物学的観点から見て遺伝子が意図的に操作されたものを体に取り入れることが、人間の種としての生存力を弱めてしまうからなのかもしれません。


どうやったら、子孫を残せるか?

熟した実は鳥が食べ、遠くに運ばれて糞とともに地中に落ちて栄養分に囲まれて芽をだします。こうして植物は種としての生息エリアを拡げていきます。このように動けない植物は、動物の活動を利用して最適生息地を探していくのです。



例えば極寒の地で絶滅しかけたとしても、最後の一株で咲いた花からできた種が運良く鳥に運ばれて温暖な地にて存続することもあるでしょう。そうした外的環境によって得て不得手があり、環境を変えることでしっかりと生き延びることができる。



まさに人間と同じではないでしょうか。人間も環境によって人生は大きく左右されます。決断して行動するのはリスクがありますが、それによって環境や状況を改善しより良く生きていくことに繋がることもある。




さて、野菜の話に戻すと・・・
野菜の苗を育てるときに観察していると、シッカリ発芽するタネと形や生育が揃わないタネがあります。これはつまり生命力の高いタネとそうでないものがあるということです。



多くの花を咲かせ実を付けてたくさんのタネをつくっても、強い個体が生き残っていきます。アブラナ科の植物はたくさんのタネを付け発芽率も高いです。花を咲かせて蝶たちに密を吸わせて受粉を促進させますが、反面、アオムシなどの食害も多くなります。無農薬で育てていると食害の多い苗と虫が付かない元気な苗があります。



こうして虫に食べられない個体は残っていきます。植物には栄養成長の時期と生殖成長の時期とがあります。栄養成長では体を大きくして元気なタネをたくさん残せるようにします。栄養成長が終わると生殖成長の時期になり実を付けます。



かぼちゃの摘心(実や花を大きくするために、新しく伸びてくる茎・枝をあえて途中でつみ取ること)をするとあわててわき芽を伸ばすのは、体を大きくするのを妨げられたことに対する適応です。人間がケガをした時にかさぶたができるのと似た原理です。



野菜も子孫を残すためには、栄養成長時には外の刺激に対抗できるくらいの体力を付けなければなりません。例えばブロッコリーは付けた頂花蕾をつむと、あわててわきから花芽を出して生殖成長を補います。



頂花蕾とは(ちょうからい)株の中心や先端にできる花蕾(からい:つぼみ)のことです。ブロッコリーでは中生種や晩生種は頂花蕾を収穫すると、側花蕾(そくからい)が次々と出てきます。




枯れないための生存戦略

植物の体内では水分を一定に保っています。細かくいうと、葉の裏にある気孔から水分を蒸発させることで植物体内の温度を下げます。そして蒸散により体内の水分が少なくなると、ポンプのように根から水を吸い上げます。この時同時にミネラル等の栄養分も吸収して成長をしていきます。



植物は土中の水分を体内に取り入れるために、蒸散によるポンプ作用とともに浸透圧の力を使っています。濃度の薄い土中の水は濃度の濃い植物体に根毛をへて移動していきます。水分が少ないところでは根は下へ下へと伸びていきます。



一方、水も土中では重力により下へ下へと移動していきます。地表が乾いていても土を掘ると湿り気が残っているのはそういうことです。実は根の広がりと葉の拡がりはおおよそ一致しています。朝露で葉の先から滴り落ちる水滴は土中にしみて根先の渇きに到達します。



つまり野菜たちは自分で必要とする水分を単に土の中からだけではなく、自分の葉っぱや茎をも駆使して、自らの根に運び自らの栄養補給にしているのです。こうして物理現象、自然現象の中で成長に必要な資源を循環させています。



与えらたカードで最大限の勝負していく。諦めることなく、淡々と自分のなすべきことを行い、果実を得る。野菜が静かに生きている中でやっていることは、人間に置き換えるとなかなかできる芸当ではありません。人間はつい現状に不満を抱き、自分の強みやその活かし方から目を逸らしがちです。



私は野菜を育てていて、人生との共通点が多くあることに度々気付かされます。



人が植物を利用しているのか。植物が人を利用しているのか。

植物の生存戦略を知り知恵比べをすることで、人は自然の原理にしたがって収穫の恵みを得ることができるようになります。しかし、進化と適応は植物の方がずっと早いのではないかと私は思います。



人間は変化に弱く、そして気づくのも遅いです。茹でガエルという話にあるように環境が変わったこと気づかないうちに手遅れになってしまうことです。昨今のビジネスシーンでは特に変化への適応が求められます。



そんな中、野菜を育てているとふと俯瞰できるようになり、人生のさまざまな場面で農業で培った野菜を育てる知見が生かされる場面が数多くあります。



人間が利用していると思い込んでいるうちに、植物たちはしたたかに自分たちの生きやすいように変化を遂げていっているのではないかと私は思うのです。



ビジネスパーソンこそ、畑で農業。私はそんなデュアルライフも大いにありだと思っています。そうした緩急の付け方が仕事もプライベートも充実する秘訣だと思っています。急がば回れ。ぜひ畑でお待ちしています。



というわけで、今回は少し生物学的、そして哲学的な切り口で野菜のことをお話してみました。
それではまた。

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