枝になった早生ウンシュウミカンの接写。皮は濃い橙色でヘタの近くにわずかに緑が残る

北原早生ミカン農家は年収2千万円?|みやま市の実像と果樹農家の所得統計

2026年10月13日(火)

北原早生ミカン農家は年収2千万円?|みやま市の実像と果樹農家の所得統計

農業コラム|北原早生とみやま市のミカン農家

「年収2千万円もざら」と話したのはJA関係者で、北原早生を育てる農家本人の年収は記事に出ていません。

見出しを見て最初は「ミカン農家はそんなに稼げるのか」と思いました。元の記事を読むと2千万円は本人の数字ではなく、本人の年収はどこにも書かれていません。それでも北原早生は一つの品種で産地を立て直した本物の成功例です。

扱うのは北原早生という品種と農水省の所得統計と家庭で試せる品質の工夫です。
枝になった北原早生のような早生ウンシュウミカンの接写。皮は濃い橙色でヘタの近くにわずかに緑が残る

「年収2千万円もざら」は誰の言葉か|みやま市の北原早生ミカン農家

「年収2千万円もざら」は西日本新聞meの記事でJA関係者が語った言葉で、北原早生を育てる農家本人の数字ではありません。

見出しの数字は農家本人の年収ではない

西日本新聞meの記事が2026年10月10日にYahoo!ニュースへ配信されました。取り上げたのは福岡県みやま市の専業農家の北原正光さん(51)です。高校卒業後は会社員の道を選び15年ほど前に家業のミカン農家を継ぎました。

年収2千万円の話を口にしたのはJAみなみ筑後の関係者です。物価の高い都会で会社員をするより夢があるのではないかという人気の理由を語る場面で出てきました。北原さんの年収は記事のどこにも書かれていません。

数字が嘘だと言いたいのではありません。業界の人が「ざら」と口にするからには稼ぐ農家は実際にいるのでしょう。ただ年収が売上なのか手取りなのかも何割の農家がその水準なのかも記事は示していません。

北原さんの経営は約2ヘクタールから4ヘクタールへ

北原さんの栽培面積は約2ヘクタールで数年後に約4ヘクタールまで広げる考えです。子どもの頃は「一番なりたくない職業」だったミカン農家を継ぐ決め手は北原早生のブランドの成功だったと話しています。長女(22)と長男(20)にも就農を勧めたいそうです。

私が引っかかったのは面積でした。2ヘクタールは後で見る全国の果樹主業経営体の経営耕地の平均1.9ヘクタールとほぼ同じです。面積が平均並みなのに「ざら」という水準が語られるなら差は規模ではなく単価や品質に出ているのではないか。そう考えました。

北原早生とは|5万本に1本の発見が産地を変えた

北原早生は2001年10月にみやま市山川町甲田の集落で農家が見つけた早生ウンシュウで、5万本に1本とされる突然変異です。

5万本に1本の変異が見つかるまで

山川みかんの歴史は古く1830年代に同町甲田の伍位軒集落で植樹されたのが始まりとされます。転機は1970年代前半でした。生産量が消費量を上回って市価が大暴落しそこから長い低迷が続いたと西日本新聞は書いています。

立て直しの起点になったのが2001年の発見です。福岡県の研究報告によると北原早生は原口早生の枝変わりで原口早生より早く酸が抜けて10月中旬から収穫できます。同じ時期に出回る極早生ウンシュウより果皮の紅が濃いことも特長です。

出荷量は福岡県の共販出荷量全体の約1割を占めます。2026年10月10日にはJAみなみ筑後柑橘部会が山川町甲田に顕彰碑を建て記念式典を開きました。発見から25年です。

糖度12度以上というブランドの基準

福岡県のオリジナルブランドとして売られる北原早生には数字の基準があります。糖度12度以上でクエン酸濃度が1%以下。着色歩合は8分以上で浮皮や傷や黒点病が少ないことも条件です(福岡県農林業総合試験場・研究報告第7号)。

図表1|北原早生のブランド果実の基準
糖度12度以上
クエン酸濃度1%以下
着色歩合8分以上
浮皮・風傷浮皮は小以下・風傷は中以下
外観黒点病は小以下・腰高は小以下
※ 福岡県農林業総合試験場の研究報告(2020年受理)に記載された基準です。

基準を満たす果実の割合は平成27年度から令和元年度で6〜29%と大きく動きました。近年は梅雨の降水量の増加や秋の高温でクエン酸1%以下は満たしても糖度12度に届かない果実が増えていると同じ報告は指摘しています。

高く売れる品種でもすべてがブランド品になるわけではありません。栽培の差がそのまま売上の差になる構造だと私は読みました。

浅い箱に並べた収穫直後のミカン。北原早生のように色づきをそろえて出荷する選果のイメージ

ブランド化は単価にどう効くのか

JAみなみ筑後の関係者は北原早生の単価をミカンとしては日本一だと話しています(西日本新聞)。首都圏の百貨店などで高値で取引されるとも伝えられています。

具体的な単価は記事に出ておらず公開されている資料でも確認できませんでした。だから「ブランド化で単価が何倍になる」とは書けません。確かなのは基準を満たした果実だけが高単価で取引される仕組みがあることです。

農家の所得が面積よりブランド果実の割合に左右されるなら先の「ざら」と全国平均の差も説明がつきます。ここは私の推測です。

ミカン農家の年収は統計でいくらか|果樹専業の平均は475万円

果樹作を主業とする経営体の平均農業所得は475万円です(農林水産省・令和6年営農類型別経営統計)。

全国平均の粗収益1,468万円と経営費の重さ

農水省の「果樹をめぐる情勢」(令和8年8月)が果樹作の主業経営体の収支を載せています。経営耕地は平均1.9ヘクタールで果樹以外の作物を含む数字です。ミカンだけの統計ではありません。

図表2|果樹作の主業経営体の全国平均(令和6年)
経営耕地面積1.9ha
粗収益(売上)1,468万円
経営費993万円
農業所得475万円
※ 農林水産省「令和6年営農類型別経営統計」。果樹以外の作物に係る数字を含みます。

年収という言葉は農家では使い方が決まっていません。売上にあたる粗収益とそこから肥料や農薬や人件費などの経営費を引いた農業所得は別の数字です。会社員の年収に近いのは所得のほうです。

経営費は粗収益の約68%でした。売上の3分の2が肥料や農薬や光熱費や荷造運賃や減価償却に出ていく計算です。仮に粗収益が2,000万円でも経営費率が全国平均と同じなら農業所得は約650万円になります。これは平均の比率を当てはめた私の概算です。

逆に2千万円が農業所得の話だとすれば全国平均の4倍を超えます。「ざら」が売上の話なのか所得の話なのかで意味は大きく変わります。農家の儲けにくさの全体像は国内の農家が儲からない構造でまとめています。

和歌山の指標は3ヘクタールで所得1,417万円

各県は果樹農業振興計画に「果樹園経営の指標」という目標の所得を定めています。令和3年改定の和歌山県のうんしゅうみかん専作は経営規模が3.0ヘクタールです。粗収益は2,345万円で経営費は928万円。農業所得は1,417万円を見込み労働時間は年3,450時間です。

これは実績ではなく目標の指標です。それでも3ヘクタール前後で千万円台の所得に乗せる姿を県が描いていることは分かります。北原さんが目指す4ヘクタールはこの指標を超える規模です。福岡県の指標は確認できませんでした。

果樹農家の面積の分布と年齢

果樹の主業経営体は全国に約4万7千あります(2020年農林業センサス)。51%は果樹の栽培面積が1ヘクタール未満で2ヘクタール以上は20%です。約2ヘクタールの北原さんは2ヘクタール以上の2割に入る側です。栽培面積と経営耕地は定義が違うので厳密な比較ではありません。

経営者が60歳以上の割合は令和2年に80.3%でした。農水省は果樹は機械化が難しい作業や剪定のような高度な技術が必要な作業が多く労働集約型だと説明しています。

園芸用手袋をした両手がミカンのヘタを小さなハサミで切り取る収穫の手元

みやま市のミカン農家に若者50人|就農の実数と人口減少

みやま市では40代以下のミカン就農者が2012年以降で約50人に達し、新規就農も10人を超えました(JAみなみ筑後・西日本新聞me)。

就農者の大半は後継ぎ

約50人の大半は後継ぎで新規就農者は10人を超えるという内訳です。北原さんが「ブランドの成功が決め手」と語ったように継ぐかどうかを分けるのは食べていけるという見通しなのでしょう。

人口と高齢化はミカンでは止まっていない

同じ記事はみやま市の厳しい数字も載せています。2007年の合併時に約43,400人だった人口は19年で約1万人減りました。高齢化率は40.15%(4月1日現在)で福岡県の60市町村中10番目に高く筑後地区で唯一40%を超えています。

市は移住と就農に独自の支援を用意しています。

図表3|みやま市の独自の支援(記事で紹介されたもの)
持ち家の取得最大55万円
賃貸で転入した世帯(1年間)最大24万円
新規就農者最大30万円

ただ市議は制度が縦割りで複雑だと指摘しています。ミカンの成功が地域全体の人口減を止めたとまでは言えません。

規模を倍にする4ヘクタールで何が要るのか

北原さんは2ヘクタールを4ヘクタールにする考えです。面積が倍になれば収穫や剪定の人手も倍近く要るのが果樹です。農水省が労働集約型と書いているとおりで機械で置き換えにくい作業が多いからです。

設備投資や人材確保をどうするかは記事に具体的な話が出ていません。和歌山の指標が3ヘクタールで年3,450時間の労働を見込んでいることを考えると、4ヘクタールは家族だけでは回りにくい規模だと私は見ています。ここも推測です。

家庭菜園のミカンで糖度を上げる工夫|北原早生の試験から学べること

福岡県の試験では水を絞るマルドリ方式で北原早生の糖度が13.5度になり、露地栽培の11.2度を2.3度上回りました(平成30年・福岡県農林業総合試験場)。

水を絞ると糖度はどこまで上がる?

マルドリ方式の糖度は13.5度で露地栽培の11.2度を2.3度上回りました。マルドリは地面にシートを敷いて雨を遮り点滴のかん水で水の量を細かく決める栽培です。クエン酸濃度はどちらも1%以下でした。

仕組みは水分ストレスです。6月中下旬からシートで根のまわりを乾かすと7月中旬から8月の実の肥大がゆっくりになります。そのぶん糖が濃くなり出荷する大きさの階級はSや2Sの小玉が中心になります。

目安の数字も出ています。糖度12度以上のブランド果実にするには8月1日の9度と8月20日の10度前後が目安です。別の研究では7月中旬から8月の実の肥大が1日0.2〜0.3ミリなら収穫時に12度以上になるとされました。

素手で二つに割ったミカンの断面。みやま市の北原早生に代表される糖度の高いブランドミカンのイメージ

家庭でこの数字を再現するのは難しいと思います。産地の試験は露地の成木にシートと点滴を組み合わせたもので鉢植えや庭木とは根の広がりが違います。それでも「水をやり過ぎると味が薄くなる」という方向は家庭のミカンにも当てはまりそうです。

鉢植えは根が限られるので水を切らしすぎると葉がしおれて枯れ込みます。夏に水を絞るなら葉がしおれる手前で止めるのが現実的だと考えています。これは試験の結果ではなく一般的な栽培の考え方にもとづく私の見立てです。

ベランダの鉢植えの柑橘に如雨露で水を与える様子。家庭でミカンの水やりを加減するイメージ

収穫を遅らせると甘くなる?

北原早生は10月下旬ごろから浮皮が問題になり収穫を遅らせて糖度を稼ぐ方法には限りがあります。

福岡県の報告では北原早生は他の早生ウンシュウより着色が早く果皮の老化も早い傾向にあります。成熟期の10月下旬ごろになると浮皮が問題になります。浮皮は実と皮のあいだに隙間ができて腐りやすくなる症状で商品になる割合が下がります。

浮皮を抑える薬剤で収穫を11月上旬まで遅らせた試験では着色や糖度がより向上する傾向にありました。ただ家庭では使えない処理なので参考にとどめます。庭のミカンは触って皮がふわふわしてくる前に収穫するのが無難だと思います。

北原早生は家庭で育てられる?

家庭向けの苗木が流通しているかも鉢植えでの育て方の資料も今回は確認できませんでした。

買うなら販売元に品種名と鉢の大きさを伝えて確かめるのが確実です。庭や畑で果樹を育てる前の土と道具の基本は家庭菜園の始め方に書きました。

収穫したミカンはどれくらい保存できる?

福岡県の試験では北原早生は0〜10℃で20日間置いても低温障害が出ませんでした。

貯蔵前の糖度は12.0度でした。20日後は0℃で12.6〜12.8度で10℃でも12.5〜13.0度でした。10℃ではカビが出やすいので傷のある果実は混ぜないよう試験の報告は勧めています。家庭では傷のないものだけを涼しい場所に置くと安心です。

書き始める前の私はミカン農家は高所得という話をそのまま受け取っていました。調べると2千万円はJA関係者の言葉で全国の果樹専業の平均は475万円でした。それでも5万本に1本の発見から25年で産地を立て直した事実は動きません。年収の数字より基準を満たす果実を作る栽培の差のほうがこの話の中身だと思っています。

参考・出典
※ 本記事は2026年10月13日時点で公表・報道されている内容にもとづいています。概算の数字は筆者によるものです。
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