水を張る前の乾いた田んぼの土から一列に芽を出した稲の苗の接写

乾田直播とは|水稲の約1.7%|田植えなしで減る作業と増える管理

2026年10月26日(月)

乾田直播とは|水稲の約1.7%|田植えなしで減る作業と増える管理

農業コラム|乾田直播と田植えをしない米づくり

田植えをしない乾田直播が水稲に占める割合は、計算すると約1.7%です。

苗を植える風景が当たり前だと思っていた人ほど意外かもしれません。乾田直播は育苗も代かきも田植えもなく、乾いた田んぼに種もみを直接まいてから水を入れる米づくりです。農林水産省や東海農政局や埼玉県などの資料にあたりました。

扱うのは、乾田直播の仕組みと減る作業と増える管理です。
水を張る前の乾いた田んぼの土から一列に芽を出した乾田直播の稲の苗の接写

乾田直播とは?苗ではなく種もみをまく米づくり

乾田直播とは水を張っていない田んぼに種もみを直接まき稲が育ってから水を入れる米づくりです。

農林水産省の資料は「畑状態で播種し、一定期間後に水を張る栽培技術」と位置づけています(2025年12月)。ふつうの移植栽培では苗箱で苗を育てて田んぼに植えるのが一般的です。乾田直播は育苗と代かきと田植えをまとめて省きます。野菜づくりにたとえるなら苗を買って植える育て方ではなく畑へ種を直接まく直まきに近い方法です。

移植栽培と乾田直播は何が違う?

違いは苗を育てる場所と水を入れる時期です。移植栽培は育苗施設で苗を作り水を張って代かきをした田んぼへ植えるのが流れです。乾田直播は乾いた田んぼをならして固め種もみを機械でまき稲の葉が2枚ほど出るころに水を入れます。

移植栽培
苗を育てて植える
  • 育苗:苗箱で苗を育てる
  • 代かき:水を張って土をならす
  • 田植え:田植え機で苗を植える
  • 水:田植え前から張っておく
乾田直播
種をまいてから水を入れる
  • 育苗:なし
  • 代かき:なし(畑の状態で整地と鎮圧)
  • 播種:機械で種もみをまく
  • 水:稲の葉が2枚ほど出るころに入れる
育苗箱に密に育った稲の苗。移植栽培で田植えに使う苗の接写

乾田直播と湛水直播はどう違う?

乾田直播と湛水直播の違いは種をまくときに田んぼに水があるかどうかです。

湛水直播は代かきをして水を張った田んぼに種をまくので田植えは省けても代かきは残ります。出芽を助けるために種もみを資材で包むなどの処理も要ります。乾田直播は育苗も代かきも省けるぶん湛水直播より省力化の幅が大きい方式です(農林水産省・東海農政局)。

名前から「ずっと水を使わない農法」と思われがちですが違います。水がないのは種をまいてから稲の葉が2枚出るまでの間で、その後は移植栽培と同じように水を張って育てます。

水を張らないまま育てる「節水型乾田直播」という新しい方式もあります。農林水産省は現状の収量が極めて不安定で技術の確立が必要としていて東海農政局も実証の段階と説明しています。この記事で扱う乾田直播は水を入れる従来の方式です。

日本人の素手のてのひらに乗せた稲の種もみ。乾田直播でまく種のイメージ

乾田直播は全国でどれくらい行われている?

令和6年産の水稲直播栽培は全国で約4.2万haで全水稲作付面積の約3%でした。そのうち約55%が乾田直播です(農林水産省調べ)。

図表1|水稲の直播栽培(全国・令和6年産)
直播栽培の面積41,657ha(約4.2万ha)
水稲作付面積1,359,126ha(約136万ha)
直播栽培の割合3.1%
うち乾田直播23,042ha(直播の55.3%)
うち湛水直播18,557ha(直播の44.5%)
水稲全体に占める乾田直播約1.7%(筆者の計算)
※ 農林水産省調べ(東海農政局資料の掲載値)。直播面積には主食用米のほか飼料用米とWCS用稲を含みます。

田植えをしない田んぼはまだ少数派です。ただ地域差は大きく、愛知県は直播の普及率が17.6%で乾田直播の面積も4,560haと全国1位でした。小麦と大豆を組み合わせる2年3作の地域で麦の収穫や大豆の播種と稲の春作業が重ならない利点があるためです(東海農政局)。一方で関東地域の普及率は0.8%にとどまります。

乾田直播で減る作業と新しく重くなる作業

乾田直播で減るのは育苗と代かきと田植えの3つの作業で、愛知県の調査では5〜6月の労働時間が移植栽培の半分以下になりました。

調べたのは水稲と露地野菜を営む愛知県の1つの経営体です。移植栽培だけだった田んぼの一部に不耕起V溝直播を取り入れて比べた結果を東海農政局が載せています(平成28年度の調査)。

育苗・代かき・田植えを省くと何が変わる?

いちばん変わるのは春の作業の山です。この経営体は代かきから田植えの農繁期に人員の確保に苦労し天候で作業が遅れて適期を逃すこともありました。直播を取り入れると田植え時期の労働時間が減り作業が平準化されたと紹介されています。

図表2|愛知県の水稲+露地野菜の経営体の調査
種子の準備から播種または移植までの労働時間移植栽培の2分の1以下
5〜6月の労働時間移植栽培の半分以下
除草剤などの資材費やや多い
※ 東海農政局「東海地域の水稲の直播栽培をめぐる事情」(2026年6月)。1つの経営体の調査ほ場の結果で全国の平均ではありません。

播種の速さにも違いが出ます。愛知県稲沢市の有限会社ハシモト耕販は作付けの約90haのうち約80haを不耕起V溝直播で作り、播種機1台で1日に5ha種をまいています(東海農政局)。岩手県の試験では30aの区画で1haあたり1.9時間の作業能率でした(岩手県農業研究センター)。

育苗の手間も軽くありません。埼玉県農業技術研究センターは手作業の多い育苗が稲作の規模拡大の足かせになっていると指摘しています(新技術情報2020)。三重県伊賀市の事例では規模が広がって育苗ハウスが足りなくなったことが直播に取り組むきっかけの一つでした。

代かきの代わりに必要になる作業は?

代かきを省いたぶんの役目を引き継ぐのが均平と鎮圧と播種の3つの作業です。

代かきは田面を平らにして土を練り水を漏れにくくする作業でもあります。乾田直播では次の流れで同じ働きをつくります。

STEP 1
均平
レーザーレベラーなどで田面の高低差を10cm以内にそろえます。低い所は水たまりで芽が出にくくなり高い所は水が回らず除草剤が効きにくくなります。
STEP 2
播種前の鎮圧
ローラーで作業幅の半分を重ねながら2回以上ならします。表面近くに硬い止水層ができて水が抜けにくくなります。
STEP 3
播種
播種量は10aあたり4kg前後で深さは1.5〜2cmです。時期は埼玉県の指針で5月中旬が目安とされています。
STEP 4
播種後の鎮圧と入水
播種後も鎮圧して土と種を密着させます。稲の2葉目が出そろったらすみやかに水を入れます。
※ 埼玉県「乾田直播『彩のきずな』栽培指針」の数値です。地域と品種と土壌で変わります。
ローラーで鎮圧した乾いた田面の土と播種の溝。乾田直播の鎮圧作業のイメージ

必要な機械も増えます。農林水産省の資料では共通の機械であるトラクターと播種機と畔塗り機と溝切り機に加えて乾田直播では鎮圧機とブームスプレーヤーが挙がっています。播種機には麦や大豆と兼用できる機種もあります(東海農政局)。愛知県西尾市などの協議会ではドローンで種をまく例もあります。播種後は土と種を密着させて発芽率を上げ鳥害を防ぐために鎮圧しています。

機械を新しく揃えるなら償却費の重さも見込む必要があります。米価が下がっても機械代が下がらない構造は農機具の減価償却の記事に書きました。

乾田直播は省力化しても「放っておける田んぼ」にはならない

乾田直播のデメリットは作業が減るかわりに苗立ちと雑草と水もちの管理が難しくなることです。農林水産省は移植栽培と比べて収量の安定性が劣るので取り組む農業者は限られていたと説明しています(2025年12月)。

埼玉県農業技術研究センターも苗立ち不良や漏水で肥料や除草剤が効かず栽培が不安定になるため導入をためらう生産者が多いと書いています(新技術情報2020)。省力化の見返りに管理の精度を求められる農法です。

芽がそろうかどうかは何で決まる?

芽の出方は鎮圧と播種の深さと土の水分で決まります。種と土が密着していないと出芽が安定せず深さが浅すぎると乾いて苗立ち率が下がります。深すぎると出芽がそろわず生育にムラが出ます(埼玉県)。

まいた種がすべて苗になるわけではありません。岩手県陸前高田市の乾田直播の試験では苗立ち率が2019年は85%で2020年は72%でした(岩手県農業研究センター)。移植栽培は育てた苗を植えるので植えた本数が基準になります。直播はまいた種のうち残った分が稲になるのが違いです。

播種後は天気にも振り回されがちです。大雨で種が水没したらすみやかに排水します。乾燥が続けば田んぼに深さ1cmほど入水してすぐ落とす「フラッシング」で出芽を促します。落水できない田んぼでは種が水没するので行いません(埼玉県)。

雑草は代かきなしでどう抑える?

代かきをしない乾田直播は移植栽培より雑草が出やすく、除草剤を乾田の期間に2回と水を入れたあとに1回の合計3回かけるのが基本です。

埼玉県の指針は播種直後から芽が出る前までの土壌処理と入水の2〜3日前の茎葉処理と入水後の処理に分けています。入水後は水深3〜5cmで水の出入りを止めて散布し7日間は湛水を保ちます。田面に高い所があって土が空気に触れると効き目が落ちるので均平が不十分だと除草も失敗します。薬剤は直播水稲に登録のある製品をラベルどおりに使います。

排水と水もちは両立できる?

田んぼの排水は良すぎても悪すぎても乾田直播には向きません。

稲が2葉期になるまでは乾いた状態で育てるので雨水がたまると芽が水没します。埼玉県の指針は苗が1週間以上水没すると枯れると書いています。愛知県も2葉期まで乾田条件で管理するので排水対策が必須としています。

水を入れる時期も決まっています。稲の2葉目が完全に開いたらできるだけ早く水を入れるのが目安です。最初の水深は2〜3cmの浅水です。入水直後は水が抜けやすいのでこまめに足します(埼玉県)。

水を入れたあとは逆に水が抜けると困ります。漏水すると肥料が流れ除草剤も効かなくなるからです。移植栽培では代かきのたびに耕盤層のひびが土でふさがれて漏水が抑えられます。乾田直播は代かきをしないので播種前の鎮圧で止水層をつくります。砂壌土のように水はけが良すぎる田んぼや排水対策をした直後の田んぼは鎮圧しても漏水を抑えにくく、埼玉県は乾田直播を難しいと説明しています。

どんな田んぼと経営に向いている?

資料を読むと向いているのは水もちと排水のバランスが取れた平らな田んぼで、機械を持つか借りられて作付けが広い経営のように見えます。東海地域の導入地域はいずれも農地の集約化が進んだ平地部でした。

費用が下がるとも限りません。農林水産省の資料は愛知県の不耕起V溝直播について、移植栽培と比べて労働費は削減できる一方で種苗費と肥料費と農薬費などの資材費がやや増えると書いています。東北の大型機械を使う方式では窒素肥料が流れやすく土質によっては施肥量が移植の1.5倍ほどになります。愛知県の不耕起V溝直播は乾田の期間に肥料が流れないよう専用に配合した被覆尿素肥料を使います。

連作にも注意が必要です。乾田直播は雑草が増えやすく漏水もしやすくなるので埼玉県は移植栽培とのローテーションを勧めています。移植と直播を組み合わせて作業を分けている事例が多いのも同じ事情でしょう。

POINT
人手が減ることと経費が減ることは別の話
乾田直播で確実に減るのは春の作業時間です。経費の総額と収量は田んぼの条件と技術に左右されるので一律に下がるとは限りません。

見沼の田んぼと家庭菜園で比べる直播と移植|直まきの考え方

直播と移植の違いは家庭菜園の直まきと苗の植え付けの違いに置き換えると見えやすくなります。

見沼の田んぼは外見で農法を判断できる?

外見だけでは判断できません。水を入れる前の春の田んぼで稲の芽が列になって出ていれば乾田直播の可能性があります。ただ水が入って稲が育つと移植との見た目は近づきます。湛水直播やドローンで種をまく方式もあるので畦から眺めるだけで断定はできません。

全国の統計では関東地域の直播栽培の普及率は0.8%でした(令和6年産・農林水産省調べ)。見沼田んぼの中だけの数字は見つけられませんでした。苗を植える田んぼが多数派だろうと思っていますが確かめたわけではありません。

春の田んぼは水が入る前後で顔が変わります。そこに集まる生き物は見沼田んぼの動植物ガイドにまとめました。

家庭菜園の直まきと苗の植え付けは何が違う?

家庭菜園では大根やにんじんのような根菜は直まきが基本で、トマトやナスのように育つまで時間がかかる野菜は苗を買って植えます。根菜は移植で根を傷めると形が乱れるので畑へそのまま種をまきます。

直まきは育苗の手間が要らない代わりに発芽までの環境を畑で整える役目が自分に回ってきます。発芽の条件は温度と水と酸素です。詳しくは種が発芽する条件の記事に書きました。土を細かくならしてからまきます。まいたあとは軽く押さえて種と土を密着させるのが基本です。乾田直播の均平と鎮圧は同じことを大きな機械でやっています。

家庭菜園の畝にダイコンの種を素手でまく直まきの手元
図表3|家庭菜園の作業と田んぼの対応
種を畑に直接まく(直まき)乾田直播などの直播栽培
苗を育てて植える(苗の植え付け)移植栽培(田植え)
畝の表面をならす均平(レーザーレベラー)
まいたあとに土を押さえる播種前後の鎮圧
発芽前後の草取り除草剤の3回体系
水やり入水と湛水の管理

苗の植え付けは育苗の手間をかけて元気な苗を植えるので初期の生育が安定します。植え方のコツは苗の植え付けの基本にあります。根づくまでの水の管理が欠かせないのは稲の移植も同じです。

家庭菜園の畝にトマトの苗を素手で植え付ける手元。直まきとの違いを比べる移植のイメージ

違うのは水の使い方です。家庭の畑は水やりで水分を足すだけですが稲は田んぼに水を張って雑草を抑え根を守ります。乾田直播ではその水を張る日を稲の生育に合わせて決める作業が加わります。

CHECK LIST 田んぼを見るときの比べどころ
1田植えの季節に田んぼへ水が入っているか。水がないのに緑の芽が出ていれば直播を疑う
2稲の並び方。移植も直播もきれいな列になるので見た目だけでは決められない
3気になれば作り手に聞く。農法は外見だけで決めつけない

調べ始める前の私は田植えをしない米づくりを単純に楽な農法だと思っていました。農林水産省の資料に収量の安定性が劣ると書かれているのを読んで見方が変わりました。作業が減るぶん管理の精度が求められる農法でその差が普及率の数字にそのまま出ているのだと思います。

参考・出典
※ 本記事は2026年10月時点で公表されている資料にもとづいています。水稲全体に占める乾田直播の割合は筆者の計算です。
MISONO FARMERS CLUB

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