掘り上げたばかりのジャガイモが畑の土の上に並ぶ様子

なぜ有事の主食は芋なのか|生ジャガイモ輸入で今起きていること

2026年9月7日(月)

なぜ有事の主食は芋なのか|生ジャガイモ輸入で今起きていること

農業コラム|食料安全保障と検疫

米と小麦を作れるだけ作っても1,752kcal
いも類中心に切り替えれば2,362kcal

農林水産省が公表していた食料自給力指標の数字です。日本人が1日に必要とするのは2,167kcal。いざというときに国民を食べさせられるのは、米でも小麦でもなく芋だと、国自身が計算しています。その芋をめぐって、2026年8月に新しい動きがありました。

扱うのは、戦時中に芋が果たした役割現行法での芋の位置づけ米国産生ジャガイモの検疫協議が今どの段階か、そして秋植えジャガイモの育て方です。
掘り上げたばかりのジャガイモが畑の土の上に並ぶ様子

芋が主食だった時代に、何が起きていたのか

配給は1日2合3勺、そして1割減へ

1941年(昭和16年)4月1日、六大都市で米穀配給通帳制が始まりました。1人1日あたりの配給量は2合3勺、およそ330g。当時の日本人の主食としてはぎりぎりの量で、しかも遅配が続きました。

それが1945年7月11日から1割減らされ、2合1勺になります。終戦のひと月前です。減った分を埋めたのが、サツマイモとジャガイモでした。

学校の運動場が芋畑になり、空き地が畑に変わりました。愛媛県では終戦直後の学校日誌に、運動場でのサツマイモの収穫や大根畑での作業が記録されています。都市の子どもが弁当に持っていったのも、米ではなく芋でした。

なぜ、芋だったのか

理由は単純で、同じ面積から取れる熱量が桁違いに大きいからです。米や麦は籾や殻を落とす分だけ目減りしますが、芋は掘ったものがほぼそのまま食べられます。しかも植えてから収穫まで3か月ほどで、土を選ばず、痩せた土地でも収量が出ます。

戦中戦後の増産運動は、この性質にそのまま乗ったものでした。ばれいしょの生産量は昭和20年の180万トンから昭和35年には360万トンへ倍増。かんしょは昭和30年に史上最高の718万トンを記録しています。

その後の落ち方も急でした。かんしょは昭和36年の633万トンから昭和50年には142万トンへ。安い輸入トウモロコシがでん粉原料の座を奪い、食生活が豊かになって芋を主食にする必要がなくなったからです。芋は、飢えが遠のくと同時に食卓から退きました

皿の上で湯気を立てる蒸したジャガイモ

「最後は芋」は、いまも国の計画に書いてある

米と小麦では足りず、芋なら足りる

戦時中の話として片づけたくなりますが、同じ計算を国はいまも続けています。農林水産省の食料自給力指標という数字で、輸入が止まったときに国内の農地をフル稼働させたら1人1日あたり何kcalを供給できるかを試算したものです。

食料自給力指標(令和5年度・農林水産省 2024年8月8日公表)
米・小麦中心の作付けに切り替えた場合1,752 kcal/人・日
いも類中心の作付けに切り替えた場合2,362 kcal/人・日
1人1日あたりの推定エネルギー必要量2,167 kcal/人・日

米と小麦を作れるだけ作っても、必要量に415kcal届きません。いも類中心に切り替えて、ようやく195kcalの余裕が出ます。不測の事態で国民を食べさせる手段として、政府が持っている札は芋だけという計算です。80年前の教訓が、統計の形で残っています。

この指標そのものは、令和5年度分を最後に公表が途切れています。令和6年度以降の食料自給率のプレスリリースには載っていません。廃止のアナウンスは見当たらないので断定はできませんが、いちばん分かりやすく現実を突きつける数字が、いま更新されていない状態です。

1,850kcalという発動ライン

2024年6月に食料供給困難事態対策法が成立し、2025年4月に施行されました。輸入の途絶や大不作で食料が不足したとき、政府が段階的に手を打つための法律です。

深刻度は3段階に分かれています。兆候の段階では事業者に自主的な取り組みを要請し、それで解消しなければ計画の届出を指示する。さらに国民が最低限必要とする供給が確保されない段階になると、熱量を重視した生産への転換を求められます。計画の届出を指示されて従わない場合は20万円以下の罰金です。

発動の目安として置かれた線が、供給熱量が1人1日あたり1,850kcalを下回るおそれがある場合。この1,850という数字の根拠は、戦後最低だった平成22年の摂取熱量1,849kcalです。令和5年の供給熱量は2,203kcal、実際の摂取熱量は1,877kcalでした。

ただし、芋はまだ「特定食料」ではない

法律が守る対象は「特定食料」として政令で指定されます。令和7年2月に指定されたのは、米穀、小麦、大豆、なたね・油やしの実、てん菜・さとうきび、生乳、牛肉・豚肉・鶏肉、鶏卵の12品目と、小麦粉・植物油脂・砂糖など加工品7品目。合わせて供給熱量の8割をカバーします。

いも類は入っていません。ただし基本方針にはこう書かれています。「供給熱量等を重視した生産を推進する(例えばいも類など、必要に応じ、特定食料として政令指定する)」。

POINT
その時が来てから、指定する建て付け
平時の指定品目に芋は入れず、いよいよという段階で政令に追加する。制度としては筋が通っています。カロリー供給に占めるいも類の比率は平時なら小さいからです。

ただ芋への転換を最後の手段として想定しながら、その芋を作る産地は平時の政策対象になっていないという形にはなります。転換を指示できるのは「現に生産している者、生産可能と見込まれる者」に限られるので、そのとき畑と種いもと人が残っているかどうかが、そのまま札の枚数になります。

その芋を作る産地に、いま何が起きているか

2026年8月28日、病害虫21種のリスト案

農林水産省は2026年8月28日、米国産の一般流通用生鮮ばれいしょについて、病害虫のリスク評価の結果を取りまとめたと発表しました。米国側と検疫措置を協議する必要がある病害虫として、21種(案)を特定しています。

内訳は害虫が14種と、菌類・細菌・ウイルス類など。名前が挙がっているのはジャガイモシストセンチュウ、ジャガイモシロシストセンチュウ、コロラドハムシ、コロンビアネコブセンチュウ、ジャガイモやせいもウイロイドなどです。シロシストセンチュウは2015年に北海道網走市で国内初確認され、いまも産地に影響が続いています。

農林水産省は9月上旬から北海道や鹿児島などの産地で説明を始め、2026年9月18日にオンラインの説明会を開いたうえで、9月内に正式なリストを公表する予定としています。その先が「病害虫リスク管理」の段階です。

いま認められているのは「揚げるまで工場から出さない」仕組み

土の中からジャガイモを両手で掘り出す手元

生鮮のジャガイモは植物防疫法で輸入が禁止されていますが、米国産だけは例外があります。2006年2月1日に定められた植物検疫実施細則で、ポテトチップ加工用に限って認められました。中身を読むと、かなり閉じた仕組みです。

CONDITION 01
産地が16州に限定
アイダホ州はビンガム郡とボンネビル郡を除く、といった郡単位の除外もある。
CONDITION 02
密閉コンテナで直行輸送
積み込みから指定施設まで開けない。シストセンチュウの検査も行う。
CONDITION 03
130℃以上の油で2分以上
指定された施設で加熱処理する。生のまま外に出る経路がない。
CONDITION 04
皮も土も焼却
加工後の廃棄物は焼却または同等の処理。畑に戻る経路を断つ設計。

2020年2月には、それまで2月から6月に限られていた輸入時期の制限が撤廃され、通年になりました。米国の圧力に屈したという言い方をされることがありますが、農林水産省の説明は違います。期間制限はもともと病害虫の侵入を防ぐために設けた措置ではなく、科学的根拠がなかった。国際植物防疫条約とWTOのSPS協定は、科学的根拠のない輸入制限を維持してはならないと定めています。

同じ2020年に、米国はポテトチップ加工用以外も含めた解禁を正式に要請しました。今回の協議は、その6年越しの要請に対する手続きです。

産地が心配しているのは、土と皮の行き先

生食用が認められると何が変わるのか。加工用との決定的な違いは、ジャガイモが台所と店先に届くことです。工場で完結していた経路が、全国の家庭とゴミ箱まで伸びる。むいた皮や落ちた土が家庭菜園に持ち込まれる可能性を、産地は心配しています。

北海道は国内生産のおよそ8割を担います。令和6年産の春植えばれいしょは全国で作付6万8,700ha・収穫226万3,000トン、うち北海道が187万トン。一方で作付農家は減り続けていて、北海道の作付戸数は令和元年度に1万1,931戸と、5年前より8.7%減りました。

2026年8月には、北海道の生産者ら8,892人分の反対署名が農林水産省に提出されています。

病害虫そのものの詳しい話は土の中で40年生きる病害虫|生ジャガイモ輸入で議論されていることに、種いもの供給体制については知っておきたい種いも危機にまとめてあります。

ハッシュタグの前に、確かめておきたいこと

決まっていないことは、決まっていない

「#生ジャガイモの輸入反対」が広がっています。産地の危機感は本物で、8,892人の署名はその重さを示しています。そのうえで、事実関係だけは正確に置いておきたい。

2026年9月時点で、生食用ジャガイモの輸入解禁は決まっていません。公表されたのは病害虫リスク評価の結果で、これから正式リストを確定し、リスク管理措置の検討、現地調査、米国の実施体制の評価と続きます。過去の輸入解禁協議は、平均でおよそ8年かかっています

「協議が始まった」を「近々解禁される」と読み替えると、そこから先の判断が全部ずれます。産地が求めているのは解禁の是非を丁寧に検討することであって、期日の噂ではありません。

それでも、段階は確実に進んだ

逆方向の誤りもあります。「まだ何も決まっていないのだから騒ぐな」という言い方です。

米国の要請から6年、目に見える動きが乏しかった手続きが、2026年8月にリスク評価の公表という節目まで来ました。次はリスク管理措置の設計という、解禁の中身を詰める段階です。決定ではないけれど、確実に一段進んでいます。

! 9月18日の説明会は、誰でも申し込めます
農林水産省が開くオンライン説明会は2026年9月18日(金)13時00分から14時30分、Microsoft TeamsによるWeb形式。農業関係者以外も参加できます。申込締切は9月11日(木)10時00分必着で、農林水産省のプレスリリースにある参加申込フォームから申し込みます。

ハッシュタグで意思表示することと、当事者の説明を直接聞くことは両立します。産地の外にいる人が聞きに来ていること自体が、この手続きの見られ方を変えます。

芋を育てるという、いちばん小さな備え

秋植えは、種いもを切らずに丸ごと

畝に芽の出た種いもを置く手元

ジャガイモは家庭菜園でいちばん失敗しにくい作物のひとつです。関東の秋作なら植え付けは8月下旬から9月上旬、収穫は11月下旬から12月上旬。植え付けが遅れると寒さが来る前に太りきらないので、今から始めるなら急いだほうがいい時期に入っています。間に合わなければ、春作の2月下旬から3月に照準を合わせても構いません。

秋作に向くのはデジマ、ニシユタカ、アンデスレッドあたり。春の定番である男爵やメークインは休眠が深く、秋にはうまく芽が動きません。

春作との最大の違いは、種いもを切らないことです。地温が高い時期に切り口を土に埋めると、そこから腐ります。40〜60gの小ぶりな種いもを選んで丸ごと植えるのが安全です。どうしても大きいものを切る場合は、切り口をしっかり乾かしてから植えます。

検査済みの種いもを買う理由は、国境の話と同じ

食用のジャガイモを植えたくなりますが、種いもとして売られているものを買ってください。理由が今日の話とそのままつながります。

種いもとして流通するジャガイモは、3種類の害虫(ジャガイモガ、ジャガイモシストセンチュウ、ジャガイモシロシストセンチュウ)と7種類の病気の検査に合格したものだけです。ジャガイモは植物防疫法の指定種苗なので、同一県内の自家栽培用に増やす場合を除いて、植物防疫官の検査を受ける義務があります。

スーパーの食用いもには、この検査義務がありません。芽が出たいもを植えるのは、検査を通っていない植物を自分の土に入れることになります。国境で21種の病害虫を止めようとしている話と、プランターに何を埋めるかという話は、同じ一本の線の上にあります。

おすすめアイテム
秋植え用の種いも

秋植え用の種いも(検査済み)

デジマやニシユタカなど、秋作向きの品種が9月ごろまで出回ります。40〜60gの小ぶりなものを選ぶと切らずに丸ごと植えられて失敗しにくいです。

Amazonで見る楽天市場で見る

※リンク先は楽天市場・Amazonの検索結果/商品ページです。

ベランダなら、深さのあるプランターで

ベランダの深型プランターで育つジャガイモの株

ジャガイモは地下に実をつけるので、容器の深さがそのまま収量になります。深さ30cm以上、容量20L前後の深型プランターで1株が目安。浅い容器だと土寄せができず、いもが地表に出て緑色に変わります。

植え付けは深さ10cmほどに芽を上にして置き、土をかぶせる。芽が15cmくらいに伸びたら勢いのよいものを1〜2本残して芽かきをし、残りは株元を押さえながら引き抜きます。あとは生育に合わせて2回ほど土を寄せて、いもが日に当たらないようにするだけです。

水やりは土の表面が乾いてから。ジャガイモは過湿を嫌うので、やりすぎると腐ります。収穫の合図は葉が黄色く枯れ上がってきたころで、晴れの日が2〜3日続いたあとに掘り上げると保存が効きます。

おすすめアイテム
野菜栽培用の深型プランター

深型プランター(深さ30cm以上)

ジャガイモは土寄せができるかどうかで収量が変わります。浅い容器より、深さのあるタイプを1つ用意したほうが結果的に早いです。

Amazonで見る楽天市場で見る

※リンク先は楽天市場・Amazonの検索結果/商品ページです。

緑になった皮と芽は、必ず落とす

家庭菜園のジャガイモで唯一気をつけたいのが、天然毒素のソラニンとチャコニンです。芽にいちばん多く、次いで皮の周辺に含まれ、光に当たって緑色になった部分では濃度が高くなります。

! 茹でても分解しません
農林水産省は「じゃがいもを茹でてもソラニンやチャコニンは分解しないので量は減りません」と明記しています。加熱すれば大丈夫、が通用しない毒素です。

2015年1月22日には奈良県内の小学校で、校内で栽培・収穫したじゃがいもを食べた51名のうち31名に吐き気や腹痛が出ました。予防は3つ。十分に大きくなってから収穫する(未熟な小さいいもは毒素の濃度が高い)、土寄せしていもを地面から出さない収穫後は暗くて涼しい場所で保管する。芽と緑色の部分は厚めに取り除いてください。

育て方をもっと詳しく知りたい方は、家庭菜園でできるジャガイモの育て方に手順をまとめてあります。

残しておくべきは、芋そのものではない

畑と種と、作れる人

芽が出た種いもを木箱に並べたところ

戦時中の教訓を「有事には芋を作ればいい」と受け取ると、たぶん半分しか受け取れていません。1945年に芋が作れたのは、畑があり、種いもがあり、作り方を知っている人がいたからです。そのどれかが欠けていたら、増産運動は号令だけで終わっていました。

食料供給困難事態対策法が生産転換を指示できる相手も、「現に生産している者、生産可能と見込まれる者」に限られます。法律は畑を作り出せません。いざというときに切れる札の枚数は、平時にどれだけ産地が残っているかで決まります。

北海道の作付戸数が5年で8.7%減ったという数字は、その札が静かに減っていることを示しています。輸入をどうするかという議論は、産地の体力の話と切り離せません。

生ジャガイモの輸入解禁は、繰り返しますが決まっていません。だからこそ、決まる前に材料を見ておく意味があります。9月18日の説明会は誰でも申し込めて、締切は9月11日の10時です。署名も、説明会も、ベランダのプランターも、向いている方向は同じだと思います。

美園ファーマーズ倶楽部(MFC)の畑でも、毎年ジャガイモを植えています。掘り上げた瞬間に子どもが歓声を上げる作物で、種いも1個から10個前後は取れる。いちばん確実に食べものが増える体験です。80年前に多くの人が芋に頼った理由は、実際に育ててみるといちばん腑に落ちます。

参考・出典
※ 本記事は2026年9月7日時点で公表されている資料にもとづいています。米国産生鮮ばれいしょの検疫協議は進行中で、解禁は決定していません。説明会の日程・申込方法は農林水産省のプレスリリースで最新の情報をご確認ください。食料自給力指標は令和5年度分が最後の公表です。
MISONO FARMERS CLUB

土に触れる一日から、
はじめてみませんか?

美園ファーマーズ倶楽部(MFC)では、ライフスタイルやご興味に合わせて選べる3つの農体験プランをご用意しています。
「土に触れる時間」と「自分で育てる楽しみ」を、ぜひ一度体験してみてください。

プランの詳細はこちら →

関連記事

よく読まれている記事

カボチャの種類・品種一覧12選|甘さ・用途別おすすめランキング【比較表つき】

カボチャの種類は西洋・日本・ペポの3系統。定番のえびすから栗より甘い雪化粧、生食できるコリンキー、ハロウィン用の観賞品種まで、代表12品種を甘さ・食感・用途の比較表とおすすめランキングで美園ファーマーズ倶楽部(MFC)が解説します。

豪雨が農業に与える影響|千葉豪雨の記録と、冠水した畑への対処法

1時間115mmは下水道が流せる量の倍以上。令和8年8月千葉豪雨の記録と、千葉県が翌日に出した作物別の事後対策を整理しました。浸水被害の55.7%が想定区域外だった分析から、家庭菜園でできる備えまで解説します。

鍬(くわ)の使い方|初心者向け平鍬の選び方と楽に使うコツ

鍬(くわ)の正しい使い方を、家庭菜園・農作業初心者向けに解説。平鍬と三本鍬の違い、力に頼らず楽に使うコツ、姿勢のポイントまで、美園ファーマーズ倶楽部(MFC)の現場知見でまとめました。

激安の桃に要注意!農家から盗まれた作物が市場に流通する現実と防犯策

梨5,000個・桃9,400個が収穫直前の畑から消えた。実際の盗難事件から、盗品が相場より安く出回る仕組み、家庭菜園でもできる防犯対策、そして買う側が見分けるチェックポイントまで、農の現場目線で解説します。

ブログ記事一覧に戻る
関連記事