敷きわらを敷いた畝に並ぶレタスの若苗。葉には小さな虫食いの跡がある

有機栽培と無農薬の違い|有機JASの条件と野菜の収量・手間の現実

2026年10月7日(水)

有機栽培と無農薬の違い|有機JASの条件と野菜の収量・手間の現実

農業コラム|有機栽培

農薬を使わずに育てた野菜でも「無農薬」と書いてはいけないことになっています。

有機栽培と無農薬は同じ意味だと思われがちですが国の制度では別のものです。農薬も化学肥料も使わない畑は条件が細かく決まっていて収量と手間にもはっきり差が出ます。その実際を公的な資料と研究で確かめ家庭菜園に持ち帰れる部分を拾いました。

扱うのは有機JASの条件と収量と手間の実際と家庭菜園で今日から取り入れられる手順です。
敷きわらを敷いた畝に並ぶレタスの若苗。葉には小さな虫食いの跡がある

有機栽培の野菜は店頭で少し高く「農薬を使っていないから安心」という印象を持たれています。ただ作る側から見ると農薬と化学肥料を手放すのは決して楽な選択ではありません。

草は伸びて虫は寄ってきて収量も落ちやすくなります。それでも続ける農家がいるのは土が育っていく手応えが大きいからだと私は考えています。その手応えを数字と制度で裏づけられるのか気になって調べました。

有機栽培と無農薬の違いは国の制度で決まっている

有機栽培として出荷できるのは有機JASの認証を受けた生産者が基準を満たして育てた農産物だけです。

「有機」と「無農薬」は日常では混ぜて使われますが指しているものが違います。有機は生産方法全体と認証の話で無農薬は農薬を使ったかどうかだけの話です。

有機JASが求める条件は「2年」と「周囲への配慮」

農林水産省によると有機農産物の畑は種まきか植え付けの前に2年以上化学肥料と化学合成農薬を使っていないことが条件です。果樹などの多年生作物は収穫前3年以上になります。

条件は期間だけではありません。周囲から使用禁止の資材が飛んできたり流れ込んだりしないよう措置を取ることも求められます。遺伝子組換えの技術や放射線照射も使えません。土の力は堆肥などの有機物で保ちます。雑草や病害虫は機械的・物理的な方法と生き物の力で抑えるのが基本で、使える資材も農水省が公表するリストの中に限られます。

図表1|有機JAS(農産物)の主な条件
畑の履歴種まき・植え付け前2年以上(多年生作物は収穫前3年以上)
使わないもの化学肥料・化学合成農薬・遺伝子組換え技術・放射線照射
土づくり堆肥などの有機物で土の生産力を保つ
草と虫の対策機械的・物理的な方法と生物の力が基本
周囲への措置使用禁止の資材が飛来・流入しないようにする
表示認証を受けた事業者だけが「有機」「オーガニック」と表示できる
※ 農林水産省「有機JAS」のページにもとづく要約です。実際の認証では登録認証機関が検査します。

認証を受けていない農産物に「有機」や「オーガニック」の名称を付けることは法律で禁じられています。紛らわしい表示も同じ扱いです。

「無農薬」と書けないのは土に農薬が残るから

農林水産省の「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」は「無農薬」「無化学肥料」「減農薬」「減化学肥料」を原則として表示してはならない語としています。2004年から適用されているルールです。

理由は栽培中に農薬を使わなくても土に以前の農薬が残っていたり隣の畑から飛んできたりする可能性があるからです。「無農薬」と書くと残留がまったくないという印象を与えてしまいます。「減農薬」は何と比べて何割減らしたのかが読み取れません。

代わりに用意されたのが特別栽培農産物です。その地域の慣行栽培と比べて化学合成農薬の使用回数と化学肥料の窒素成分量をどちらも5割以下に減らして育てたものがこの表示を使えます。ガイドライン自体に罰則はありませんが内容によってはJAS法に基づく指導の対象になる場合があります。

自然栽培や不耕起栽培との線引きは菌ちゃん農法と無農薬・自然栽培の違いの記事にまとめています。有機JASとは別の基準で語られることが多いからです。

有機農業の畑は日本の耕地の0.9%

令和6年度の有機農業の取組面積は3.98万haで国内の耕地面積の0.9%でした(農林水産省)。この数字には有機JASの認証を受けていない取組も含まれています。

国の「みどりの食料システム戦略」は2030年に6.3万ha、2050年に100万ha(耕地面積の25%)まで広げる目標を掲げています。現状の約25倍です。畑で有機の畝を見かけることがほとんどないのは数字を見れば当然かもしれません。数字だけ見ると遠い目標に思えますが畑で何が起きるかを知るとその重さが具体的に分かってきます。

農薬も化学肥料も使わない畑の収量と手間

世界の研究を平均すると有機栽培の収量は慣行栽培より約25%少なく、野菜に限ると約33%少なくなります。

有機栽培のデメリットとして語られるのは収量の減少と手間の増加と価格の高さの3つです。どれも畑の側から見ると同じ原因につながっていて、農薬と化学肥料が担っていた仕事を人と土が引き受けることになるからです。

有機栽培の収量は野菜で約3割少ない

2012年に科学誌ネイチャーに載ったセウフェルトらの分析は有機栽培と慣行栽培を比べた66件の研究を集めて収量の比を出しました。有機栽培の収量は全体で慣行の約75%でした。

図表2|慣行栽培を100としたときの有機栽培の収量
野菜約67(33%少ない)
穀類約74(26%少ない)
果樹約97(差は統計的に有意でない)
全体の平均約75(25%少ない)
好条件で管理した有機栽培の平均約87(13%少ない)
※ Seufert et al. (2012, Nature) の分析。世界各地の研究の平均で日本の畑の数字ではありません。

差は作物で大きく違います。果樹はほとんど変わらず野菜と穀類で大きく開きました。輪作や堆肥の使い方など管理が整っていれば差は13%まで縮まっています。収量の差は有機かどうかだけでなく管理の腕でも変わるわけです。

野菜は肥料の効きと虫の影響が収量に出やすい作物ですから土づくりと防除の差がそのまま数字に映るのだと私は読みました。収量が減れば同じ面積で穫れる量も減るので価格にも反映されやすくなります。認証を受けるには検査の手間と費用もかかります。

除草剤を使わない畑は草との勝負になる

除草剤を使わない畑では雑草の管理が手作業と機械作業に置き換わって草取りの比重が大きくなります。

佐賀県農業試験研究センターが水稲の有機栽培を実証した試験(2014年公表)では、収量は県の慣行栽培の85%以上と見込まれる一方で総労働時間は1.5〜1.9倍に増えました。除草機で取りきれなかった雑草の手取り作業が多かったためです。販売単価は約2倍で農業所得は3倍以上と見込まれています。

平坦地の水稲という限られた条件の結果ですが、手間は増えても価格で取り戻せる場合があるという両面が出ています。野菜でも同じとは限らないので参考値として受け取ってください。

有機JASも雑草は機械的・物理的な方法で抑える前提です。手で抜くか刈払機で刈るか敷きわらやシートで光を遮ります。水田なら水を深く張る方法もあります。どれも人の手と時間を使う方法です。草は種ができる前に抜いておくと翌年の草取りがぐっと楽になります。

草は小さいうちなら根が浅く指先で抜けます。伸びてからでは株元に絡んで野菜の根まで傷めるおそれがあります。除草剤なら一度の散布で済む作業が有機の畑では小まめな見回りの積み重ねです。これが手間の正体だと感じています。

軍手をはめた両手で、キャベツの苗のそばに生えた小さな雑草を抜く様子

病害虫は「出てから叩く」より「出にくくする」

農薬を使わない畑の病害虫対策は発生してから抑えるより出にくい環境を作ることが中心です。虫が増える夏はキャベツやブロッコリーなどアブラナ科の被害が目立ちます。

株間をとって風通しを保つ。同じ科の野菜を同じ場所に続けて植えない。防虫ネットで成虫の飛来を防ぐ。葉の裏を見て卵や幼虫を早めに取り除く。地味な作業ですがどれも毎年の畑で効きます。有機JASが認める生物的な防除には天敵や微生物を使う方法もあります。

それでも葉に穴があくことはあります。収穫に支障がなければ許容して続ける人が多く、どこまで許容するかを先に決めておくと気持ちが楽になります。被害が出た株は早めに抜いて畑の外に出すと周りへの広がりを抑えられるでしょう。

畝の上に張った白い防虫ネット。有機栽培で農薬に頼らず虫を防ぐ工夫

家庭菜園で有機栽培を始める手順

家庭菜園で有機栽培に近づけるには堆肥で土を作り草を小さいうちに抜き虫を物理的に防ぐ3つを揃えれば足ります。

STEP 1
堆肥で土を作る
植え付けの2週間ほど前に完熟堆肥を入れて土とよく混ぜる
STEP 2
敷きわらで草を抑える
株元を覆って光を遮り泥はねも減らす
STEP 3
防虫ネットで虫を防ぐ
植え付けと同時にトンネルを掛ける
STEP 4
同じ科を続けて植えない
病気と虫がたまらないよう毎年植える場所を替える

堆肥は何を選んでどれくらい入れる?

植え付けの2週間ほど前に完熟堆肥を1㎡あたり1〜2kg入れて土と混ぜるのが最初の作業です。未熟な堆肥は土の中で発酵して根を傷めるので袋に「完熟」と書かれたものを選んでください。堆肥は牛ふん堆肥や腐葉土が園芸店で手に入りやすく初めてなら市販品で十分です。

野菜を穫り終えて畝が空く時期には緑肥の種をまく方法もあります。育った草を土にすき込むと有機物が増えるのが緑肥の考え方です。栽培の途中で肥料が切れたら油かすや米ぬかを株元にまいて追肥にします。効き方がゆっくりなので葉の色が薄くなる前に早めに足すのがコツです。有機JASの認証を目指すなら使える資材のリストを必ず確認してください。土を耕す手順そのものは家庭菜園の始め方にまとめています。

軍手をはめた両手で、畝の土の上に黒く崩れた堆肥を広げる様子

雑草と虫は畝の作り方で減らせる

敷きわらや刈り取った草で株元を覆うと光が届かず草が生えにくくなります。雨のときの泥はねも減るので病気も出にくくなるでしょう。

キャベツや小松菜などアブラナ科の野菜は虫が集まりやすいので苗を植えた日にトンネルを掛けて目の細かい防虫ネットで覆うのが確実です。ネットの裾は土で押さえて隙間をなくしてください。ジャガイモならジャガイモの育て方の記事でも家庭菜園での無農薬栽培を扱っています。

家庭菜園の野菜でも「有機」と名乗れる?

自分で食べる分に認証は要りませんが売るときは有機JASの認証がなければ「有機」「オーガニック」と表示できません。

直売所やフリマアプリで売る場合は有機JASと特別栽培のどちらの表示で出せるのかを先に確かめる必要があります。有機JASには2年以上の転換期間もあります。名乗らなくても堆肥と敷きわらで農薬に頼らない畑は十分に作れますから、まず自分の畑で試すのが現実的です。

有機栽培を続けるコツと食と環境に残るもの

農薬と化学肥料をゼロにするか慣行に任せるかの二択ではなく減らす段階を選べると続けやすくなります。

全部を有機にしなくていい

制度にも中間はあります。特別栽培農産物は化学合成農薬と化学肥料を慣行の5割以下に減らす考え方です。家庭菜園なら堆肥と敷きわらだけ取り入れる形でも構いません。虫のつきやすい作物だけネットを掛ける形もあります。売り物にしない畑なので多少の虫食いや形の不揃いも楽しめます。そのくらいの線引きで十分に意味があると思います。

収量が1〜3割落ちる前提で苗を多めに植えておくと虫に食われたときも気持ちに余裕が残るはずです。

一人で抱え込まない

草取りと虫の見回りは時間がかかります。夏の盛りに一人で続けると心が折れやすいものです。経験者の畑を見せてもらうと土の状態や草の取りどきが一度で分かります。作付けと草の伸び具合と虫の出た時期をメモに残しておけば翌年の判断も早くなります。

美園ファーマーズ倶楽部(MFC)の大人の農業体験では土づくりから収穫までをスタッフと一緒に進めます。草や虫への向き合い方を畑で直接見られる場です。

木箱に入った収穫したてのトマトとキュウリと小ナス。形は不揃い

食と環境に残るもの

有機農業の推進に関する法律(2006年)は有機農業を、化学肥料と農薬を使わず遺伝子組換え技術を利用せず農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した方法と定めています。目的は安全性の保証よりも土と環境を傷めない生産の仕組みを広げることです。

堆肥を入れ続けた畝は数年で土がほぐれやすくなることが多いです。野菜の味が変わったと言い切れるほどの根拠は私の手元にはありませんが、土が育つ手応えは畑に出る人なら誰でも確かめられます。堆肥の原料は家畜のふんや落ち葉で畑の外にある有機物を土に戻す循環にもなっています。

2年待たなければ名乗れない有機の畑は野菜を育てる前に土を育てる仕事なのだと、今回の調べ物で受け止め直しました。

参考・出典
※ 本記事は2026年10月時点で公表されている資料にもとづいています。収量の数字は海外を含む研究の平均で、日本の個々の畑の結果を保証するものではありません。
MISONO FARMERS CLUB

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