2026年8月17日(月)
日本の畑は誰が支えているのか|農業の人手と2027年の制度転換
日本の農業分野で働く外国人は、約6万8千人。
担い手103.6万人の、およそ15人に1人にあたります。
農業の人手の話題は、SNSで一本の動画が広がるたびに感情的になりがちです。ただ、数字を並べていくと、議論の前提そのものがずれていることが分かります。2027年4月には技能実習制度が廃止され、育成就労制度へ移行します。その節目に、公的統計で足元を確かめておきます。
畑で働く6万8千人
農業分野の外国人材は、いま何人か
農林水産省の資料によれば、2025年12月末時点で農業分野の技能実習生と特定技能外国人の総数は約6万8千人です。内訳は技能実習が28,671人、特定技能1号が37,952人、特定技能2号が1,282人。特定技能2号は2023年6月に農業が対象へ加わったばかりの区分です。
この数字の意味は、比べてみるとはっきりします。日本の基幹的農業従事者は103.6万人(2025年農林業センサス確定値)。単純に並べれば、農業に関わる人のおよそ15人に1人が外国人材という計算になります。しかも担い手の平均年齢は67.7歳で、25年前の半分以下まで減りました。
特定技能1号の伸び方も目を引きます。制度が始まった2019年末の在留者は292人でしたが、2024年6月末には27,786人、そして2025年12月末で37,952人。わずか6年で百倍を超えました。政府は2029年3月末までの受入れ上限を73,300人と見込んでいます。技能実習が減り、特定技能が増える——制度の重心は、すでに移りつつあります。
なぜ、この規模になったのか
農業の労働需要には、極端な山谷があります。定植と収穫の時期に集中し、それ以外は落ち着く。この山を越えるには、短期間に人手を集めるしかありません。ところが農村部では、その時期だけ働ける人を地元で確保することが年々難しくなっています。
制度の側にも事情があります。農業は労働基準法第41条により、労働時間・休憩・休日の規定が適用除外とされている業種です。天候や季節に左右され、固定的な労働時間になじまないという理由によるものです。適用除外なのは労働時間関係だけで、最低賃金や安全配慮の義務は当然かかりますが、「働く時間の枠が法律で区切られていない産業」だという点は、人手の議論をするうえで外せない前提になります。
加えて、収穫は待ってくれません。キャベツもレタスも、適期を数日過ぎれば裂球したり品質が落ちたりします。「来週人が集まったら収穫しよう」が通らない産業です。人が足りないことが、そのまま廃棄や品質低下に直結する。ここが、他の産業の人手不足と決定的に違うところだと思います。
監督指導の統計が示していること
外国人材の受入れをめぐっては、さまざまな見方があります。ただ、継続的に統計が取られ、毎年公表されているデータがひとつあります。厚生労働省による監督指導の結果です。
農業・畜産の違反率は75.9%
令和6年、全国の労働基準監督署が技能実習生を使用する11,355事業場に監督指導を実施し、その73.2%にあたる8,310事業場で労働基準関係法令違反が認められました。業種別に見ると、農業・畜産は465事業場のうち353事業場(75.9%)で、全業種平均を上回っています。
違反率そのものは、ここ5年ほど横ばいです。令和2年70.8%、3年72.6%、4年73.7%、5年73.3%、6年73.2%。監督指導を受けた事業場数は8,124から11,355へ増えているので、調べる件数を増やしても、見つかる割合は変わっていないことになります。
実習生からの申告112件、その中身
同じ統計には、技能実習生の側から労働基準監督署へ寄せられた申告の集計もあります。令和6年は112件。内訳は賃金・割増賃金の不払が88件、解雇手続の不備が20件、最低賃金額未満が9件でした。
言葉が通じにくく、住まいも仕事とセットで、辞めれば在留資格に関わる立場から役所に申し立てるのは、簡単なことではありません。112件という数は、そのハードルを越えた分だけと考えるのが自然です。
2027年、制度が変わる
2024年6月に法改正が成立し、技能実習制度は2027年4月に廃止され、育成就労制度へ移行します。移行にあたっては約3年の激変緩和措置が設けられ、しばらくは両制度が並行して運用される見込みです。
名称の変更にとどまる話ではありません。技能実習の建前は「開発途上国への技能移転による国際貢献」でしたが、実態は国内の人手不足を支える労働力でした。この乖離が長く指摘されてきたところに、育成就労は「人材の確保と育成」を目的として明記します。建前を実態に合わせにいった、という整理が近いと思います。
何が変わるのか
最大の変更点は転籍です。技能実習では原則として認められていませんでしたが、育成就労では同じ分野であれば転籍が可能になります(農業分野は1年の制限期間を設定)。
この一点が持つ意味は小さくありません。転籍できない仕組みは、受入側にとっては人が定着する安心材料である一方、働く側にとっては、条件が悪くても動けないという構造でもありました。制度が廃止される理由として挙げられているのは、まさにこの「劣悪な労働環境への閉じ込め」であり、賃金未払いやパスポート取り上げといった人権侵害、そして米国国務省の人身取引報告書で継続的に指摘されてきたことです。
- 目的は国際貢献(技能移転)
- 転籍は原則不可
- 農業分野の在留者 28,671人
- 労働基準法は適用
- 目的は人材の確保と育成
- 同一分野なら転籍が可能(農業は1年の制限期間)
- 受入れ見込 26,300人(2027〜28年度)
- 特定技能への移行を想定した設計
農業分野には、全分野共通の基準に加えて独自の上乗せ基準も定められています。ひとつは労働時間等の待遇について労働基準法に準拠すること。先ほど触れたとおり農業は労基法41条で労働時間の規定が適用除外ですが、外国人材の受入れにあたっては準拠を求める、という組み立てです。もうひとつは労災防止を目的とした「入国後講習における農作業安全講習」の受講で、こちらは新たに追加されました。
人手をどう確保していくか
ここまでの数字を踏まえると、進む方向はある程度はっきりします。働く場所として選ばれるかどうかという問題に、農業全体が向き合う段階に来ています。
もうひとつ、育成就労では日本語能力の要件も設けられます。就労開始時にA1相当以上、育成就労の終了までにA2.2相当以上。特定技能1号への移行にはA2.2相当以上が求められ、2027年4月からはB1相当以上が適用されます。言葉が通じないまま危険な農作業をさせる、という状況を減らす方向の設計です。農業分野で入国後講習に農作業安全講習が加わったのも、同じ流れにあります。
転籍が可能になるということ
2027年以降、同じ分野なら移れるようになります。これは受入側から見れば、条件が悪ければ人が去るという話でもあります。労働環境の改善が、善意ではなく経営上の必要になる。監督指導で農業・畜産の最多違反が「賃金の支払」だった事実は、この文脈で読み直す価値があります。
裏を返せば、丁寧に受け入れている農家にとっては追い風です。これまでは制度に縛られて人が動かなかったぶん、良い受入先の評判が広がりにくい構造でした。選べるようになれば、条件の良い場所に人が集まります。
待遇の面では、通年で仕事をつくれるかどうかも効いてきます。露地野菜だけだと繁忙期と閑散期の差が激しく、安定した雇用になりません。施設栽培や加工、直売を組み合わせて年間の仕事を平準化している経営ほど、人が続いている印象があります。人手不足の対策が、そのまま経営の多角化の話になるのは、この産業の特徴かもしれません。
待遇の改善は、聞こえのいい話だけでは終わりません。賃金を上げれば原価が上がり、価格転嫁できなければ経営が苦しくなります。監督指導で「賃金の支払」が最多違反だったことの背景には、悪意だけでなく、払いたくても払えない経営も混じっているはずです。だからこそ、労働環境の話は農産物の価格の話と切り離せません。
技術と、地域の関わりしろ
人手そのものを減らす方向の投資も進んでいます。自動操舵の農機や収穫支援ロボット、選別の自動化。ただ、これらはある程度の規模と資金がないと届きません。小規模な経営ほど、機械化の恩恵は後回しになります。
そこで意味を持つのが、地域からの関わりです。繁忙期だけ手伝う援農ボランティア、週末だけの短時間アルバイト、収穫体験を兼ねた作業参加。1日単位でも、山の時期の人手は確実に助けになります。自治体やNPOが受け入れ窓口を持っている地域も増えました。
家庭菜園をやっていると、この感覚は少し分かるかもしれません。真夏にトマトを10株世話するだけでも、水やりと芽かきと収穫でそれなりの時間が消えます。それが数千株、数ヘクタールになったときに何人分の手が要るのか。自分の区画の作業量を単純に掛け算してみると、農業の人手の話が急に具体的になります。
まとめ|数字から始めるほうが、話が早い
農業分野で働く外国人は約6万8千人。担い手103.6万人の15人に1人にあたります。監督指導では、疑いを持って調べた農業・畜産の事業場の75.9%で違反が見つかり、最も多かったのは賃金の支払でした。実習生からの申告112件のうち88件が賃金の不払い。一方で失踪者数は前年から39.3%減り、割合は0.6%になりました。
この話題はSNSで感情的になりやすく、一本の動画から大きな結論が導かれることもあります。ただ、一人の行動から属性全体を語ることはできませんし、その逆も同じです。統計は個人を裁く道具ではなく、仕組みのどこが軋んでいるかを教えるものだと思っています。
2027年の制度転換は、その軋みに手を入れる作業でもあります。転籍が可能になり、労働時間の待遇に労基法準拠が求められ、農作業安全講習が加わる。働く場所として選ばれる畑をつくれるか——問われているのは、たぶんそこです。そしてそれは、外国人材に限った話ではなく、日本の若い就農者に対しても、まったく同じことが言えます。
最後にひとつだけ。この記事を書くために統計を追っていて感じたのは、議論に使われる言葉の粗さと、公表されている数字の細かさのギャップでした。業種別、違反項目別、年次推移、申告の内訳まで、必要な材料はほとんど公開されています。調べれば分かることを調べずに語られている——それが、この話題がこじれる一番の理由かもしれません。
- 農業分野における外国人の受入れについて(農林水産省)/人数・受入れ見込・制度比較
- 技能実習生を使用する事業場に対する監督指導、送検等の状況(厚生労働省・令和6年/PDF)
- 外国人技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況(厚生労働省)
- 「技能実習制度」が「育成就労制度」に変わります
- 農業等事業者と労働基準法適用除外について(Oike Library/PDF)
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