朝露をのせて黄金色に実る稲穂のアップ。エチオピアへの稲作支援と国内の米農家を考える記事の主題

エチオピア稲作支援3.6億円|国内の米農家に回すべきか数字で確かめた

2026年10月3日(土)

エチオピア稲作支援3.6億円|国内の米農家に回すべきか数字で確かめた

農業コラム|海外支援と国内の米農家

エチオピア稲作支援の3.6億円を国内の農業経営体1つあたりに割ると約430円でした。

「国民が疲弊しているのに国内の米農家をまず守るべきだ」。エチオピアへの稲作支援のニュースにそんな声が上がりました。畑にいる人間として気持ちは分かります。米農家の置かれた状況は楽ではないからです。それでも怒りの向け先を決める前に外務省と農林水産省の公表資料で数字を割ってみました。

扱うのは支援の中身と国内の米農家の現状、そして家庭菜園でできることです。
朝露をのせて黄金色に実る稲穂のアップ。エチオピアへの稲作支援と国内の米農家を考える記事の主題

先に書いておくと割り算の結果だけでは何も決まりませんでした。支援は小さな金額でも国内で減った予算は大きかったからです。

エチオピア稲作支援3.6億円の中身|外務省の発表を確かめる

日本政府は2026年9月30日にエチオピアと3.6億円の無償資金協力の書簡を交わしました。稲作用の機材の調達を支える協力です。

3.6億円は何を買うためのお金なのか

外務省の報道発表(2026年10月1日)によると使い道はセーフティーローダーとトラクターなどの稲作農業関連機材の調達です。

機材を受け取るのはエチオピア農業省です。現金を配る形ではなく機材を整える協力でした。案件名は「経済社会開発計画」(稲作農業関連機材)で日本企業の製品を含むと書かれています。

田んぼの縁に止まった小型トラクターの前輪。稲作の機械化を支える農機のタイヤ

エチオピアの稲作はなぜ支援の対象になったのか

エチオピアでは紛争と経済の悪化を受けて主食の穀物テフの価格が高騰しました。その結果として米の需要が急に伸びています。

国内の生産は需要に追いつかず米の自給率は約20%にとどまります。輸入が増えて外貨準備高を圧迫しているため同国政府は稲作の機械化で生産性を上げたい考えです(外務省)。

エチオピアの人口は約1億3,547万人(2025年・世界銀行)で面積は日本の約3倍です。人口がこれだけ多い国で米の自給率が約2割という数字は小さな問題ではないと感じます。

エチオピア向けの無償資金協力として大きい案件なのか

外務省の令和7年度の約束日別一覧には2025年5月16日付でアディスアベバの感染症治療専門病院の整備計画25.21億円が載っています。今回の3.6億円はその約7分の1です。

農業分野では令和6年度に北部地域の営農促進計画(FAO連携)10.93億円が実施されています(2025年2月25日)。2022年9月28日には同じ「経済社会開発計画」の名前で5億円の協力がありました。

エチオピアへの協力は毎年いくつも積み重なっていて今回はその中の比較的小さな1件です。小さいから問題ないという話ではありません。ただニュースの見出しで受ける印象ほど突出した金額ではないことは確かです。

無償資金協力と農林水産予算|3.6億円は国内の農業予算の何割か

3.6億円は令和8年度の農林水産関係予算2兆2,956億円の約0.016%にあたります。

ODA予算と農林水産予算はどういう関係か

令和8年度の政府全体のODA当初予算は5,835億円で外務省所管が4,497億円です。そのうち無償資金協力は1,531億円でした(外務省)。

3.6億円はODA全体の約0.06%で無償資金協力の枠の約0.2%にあたります。財源が当初予算か補正予算かは発表文に書かれていません。どちらでも規模の感覚は大きく変わりません。

ODAは主に外務省が所管し農林水産関係予算は農林水産省が所管するので予算の枠は別に組まれています。ただどちらも国の予算ですから財源が限られるなら優先順位の議論は残ります。

3.6億円を国内に回すと1経営体あたりいくらか

農業経営体は2025年2月1日時点で83万6千でした(2025年農林業センサス確定値)。3.6億円を割ると1経営体あたり約430円になります。

図表1|3.6億円を割ってみた
農林水産関係予算に占める割合約0.016%(令和8年度 2兆2,956億円)
政府全体のODA当初予算に占める割合約0.06%(令和8年度 5,835億円)
農業経営体1つあたり約430円(83万6千経営体)
※ 割り算による概算です。

国内に回しても1経営体に430円です。支援を取りやめても国内の米農家の収支が動く金額ではありません。

国内の米と水田向けの予算はどう動いたか

気になるのは国内の予算が増えたか減ったかのほうです。令和8年度の農林水産省の予算概要から米と水田に関わる主な項目を拾いました。

図表2|令和8年度の米・水田関連の主な予算(かっこ内は前年度)
水田活用の直接支払交付金等2,752億円(2,870億円)
経営所得安定対策(ゲタ・ナラシ)所要額2,462億円(2,541億円)
農業構造転換集中対策494億円(244億円)
米穀等安定生産・需要開拓総合対策事業15億円(-)

水田で麦・大豆や米粉用米などを作る農家を支える「水田活用の直接支払交付金等」は118億円減りました。ゲタ・ナラシは79億円減っています。2つを足すと197億円で3.6億円の約55倍です。

ただ減った理由は概要から読み取れません。ナラシは収入が基準を下回ったときの補填なので米価が高かった年は所要額が小さくなる性質があると考えられます。予算が減ったことと農家が楽になったことは別の話です。

一方で農業機械の導入などを含む「農業構造転換集中対策」は494億円で前年度の244億円から増えました。米の種子の安定供給や直播の導入を支える新しい事業にも15億円がつきました。機械化とコスト低減への支援は国内でも手当てされています。

国内の米農家の現状|担い手の減少と米価の上下

農業経営体は2025年2月1日時点で83万6千となり5年前から24万(22.3%)減りました(農林水産省)。

国内の担い手はどれだけ減ったのか

法人経営体は3万4千で5年前から10.1%増えました。1経営体あたりの経営耕地面積は3.6haに広がり20ha以上の経営体が面積の約5割を占めます。

刈り取ったばかりの稲穂を素手で持つ手元。国内の米農家が続けてきた米づくり

経営体の数は減っても農地は大きな経営体へ集まっています。ただこの統計は米農家に限った数字ではありません。農業全体の姿として読む必要があります。

米農家の時給は規模でどれくらい違うのか

米農家の収支は平均で語ると実態を外します。農林水産省の農業経営統計調査(2023年・確報)をもとにしたJAcomの試算では水田作の個人経営体の平均は作付2.2haで農業所得が5万1,000円でした。家族の労働時間807時間で割ると時給は63円です。

主業経営体(作付9.5ha)は農業所得が269万6,000円で時給1,008円でした。20ha以上の主業経営体(平均33.4ha)では960万8,000円で時給2,476円になります。

共済・補助金などの受取金が粗収益に占める割合は個人経営の平均で20%・主業経営体で25%・20ha以上の主業経営体で31%です。農業所得にはこの補助金が含まれるので農産物の販売収入だけで見るとさらに厳しくなります。

この数字は米価が上がる前の2023年のものです。平均には兼業や零細も含まれるので米農家全員の姿ではありません。それでも規模で収支がここまで変わることは確かで「国内の米農家」とひとまとめに語るときの落とし穴だと感じます。

米価の上下は農家の手取りにどう響くのか

令和7年度の食料自給率は生産額ベースで66%となり前年度から2ポイント上がりました。農林水産省は米と畜産物の国内価格の上昇を要因に挙げています。

2026年産では逆に動いています。JAみやざきの早期米コシヒカリの概算金は玄米60kgあたり約1万8,000円で昨年の概算金より4割強下がりました(JAcom・2026年7月15日)。

概算金は最終の精算額ではありません。令和6年産米の個別経営体の全算入生産費は60kgあたり1万5,814円でした(農林水産省)。約1万8,000円は生産費を上回ります。それでも1年で4割強の下げは経営の計画を狂わせるのに十分な幅です。

米価の動きと輸入米の数字はカルローズ米と国産米の違いに書きました。農家が儲けにくい構造は国内の農家が儲からない構造でまとめています。

食料自給率37%は何を意味するのか

令和7年度のカロリーベース食料自給率は37%で前年度から1ポイント下がりました(農林水産省・2026年8月7日公表)。

農林水産省が挙げた要因は国産供給熱量の減少と米消費量の低下です。エチオピアへの稲作支援は要因に入っていません。米の消費量が減ると自給率が下がるので農家を守る話と食卓の話は同じ数字でつながっています。

生産基盤が細ったときのリスクは2050年の食料危機と日本の農業に書きました。

エチオピア稲作支援は是か非か|国内優先と国際協力の言い分

エチオピア稲作支援への批判と擁護は3.6億円という同じ数字から出発しても別々の事実に支えられています。

「まず国内を」という声の背景

このニュースへの批判は国民が疲弊しているのに国内の米農家をまず守るべきだという形で広がりました。感情として自然だと思います。

根拠にできる事実は米価の上下と国内の予算です。2026年産の概算金は前年から大きく下がり水田活用の直接支払交付金等は118億円減りました。

批判の芯は3.6億円の大きさより順番にあると私は受け取りました。国内が苦しいときに海外へという順序への違和感です。

国際協力の意義と限界

外務省はこの協力を2025年8月のTICAD9で表明した食料安全保障の強化と持続可能な農林水産業支援の具体化と位置づけています。SDGsの目標2「飢餓をゼロに」への貢献も挙げています。

日本は食べる熱量の6割以上を国産でまかなえていません(カロリーベース食料自給率37%)。世界のどこかで主食が不足して価格が荒れると輸入に頼る日本にも波が届く可能性があります。エチオピアで増産された米が日本に届くわけではないので影響があるとしても間接的です。

限界もあります。署名されたのは機材調達の書簡の段階で稲作の生産性や自給率がどれだけ上がるかは公表されていません。日本企業の製品を含むとあるだけで国内の企業にどれだけ還元されるかも分かりません。

図表3|この記事で確かめた3つの区分
確かめられた事実3.6億円で稲作機材を調達する(外務省)・国内の水田活用の交付金等は118億円・ゲタ・ナラシは79億円の減(農林水産省)
逆向きの事実3.6億円は農林水産関係予算の約0.016%で農業経営体1つあたり約430円
まだ言えないこと支援を止めれば国内の予算が増えるのか・機材で現地の自給率がどれだけ上がるのかは公表資料にない

家庭菜園・小さな生産者にできること|国産米と国内農業を支える3つの行動

国内の米を支える行動は1人あたり年に約51kg食べる米の買い先を決めることから始められます(農林水産省・令和5年度)。

国産米を選ぶときは何を見ればいい?

精米の袋に書かれた原料玄米の産地表示を見れば国内産かどうかが分かります。ブレンド米なら複数の産地が並びます。

外食や惣菜の原料までは袋で確かめられません。家庭で買う米だけでも直売所や産直で買い先を1つ決めておくと迷いが減ります。買い先を地域の農家に寄せることは量が少なくても続けやすい支え方です。

炊きたてのご飯と味噌汁と野菜の煮物が並ぶ家庭の食卓。国産米を日々の食卓で選ぶイメージ

家庭菜園でバケツ稲は育てられる?

育てられます。5月上旬に種もみをまくと秋に穂が実ります(JAグループ)。

バケツ1個の収量はわずかで目的は食料の自給より稲の一生を見ることにあります。穂が出る頃までは水を切らさず台風の前には雨風の当たらない場所へ移します。来年の春に始めるなら今のうちにJAグループの手引きを読んでおくと流れがつかめます。

黒いバケツの泥水に稲の苗を植え付ける手元。家庭菜園でできるバケツ稲づくり

稲が実るまでの手間を一度でも見ると5kgの米袋の値段の見え方が変わります。土づくりや道具は家庭菜園の始め方から入れます。

農業政策の数字はどこで追える?

外務省の報道発表と農林水産省の予算概要と食料自給率の公表を読めば今回の数字は誰でも自分で確かめられます。

ODAの案件は署名のたびに外務省の報道発表に載ります。農林水産関係予算は年末に概算決定の概要が出ます(令和8年度分は2025年12月)。食料自給率は令和7年度の概算値が2026年8月7日に公表されました。

制度の案には意見募集(パブリックコメント)があり誰でも意見を出せます。SNSで見かけた数字は出どころの資料までたどってみると印象が変わります。

書き始める前の私は3.6億円を国内に回すべきお金のように思っていました。割ってみると1経営体あたり約430円で減った水田関連の交付金118億円のほうがはるかに大きな数字でした。支援を責めて済む話ではなく国内の予算がどこへ向かうかを自分で確かめる話だと考え直しました。

参考・出典
※ 本記事は2026年10月時点で公表されている資料にもとづいています。割り算の数字は筆者による概算です。
MISONO FARMERS CLUB

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