耕した土のそばに止まった大型トラクターの後輪タイヤ

農業の機械化の現在地|自動操舵とドローンで労働時間は平均9%減

2026年11月3日(火)

農業の機械化の現在地|自動操舵とドローンで労働時間は平均9%減

農業コラム|農業の機械化

無人のトラクターやドローンが入れば作業は半分になりそうに見えます。国の実証で出た水田作の総労働時間の削減は平均で9%でした。

9%は小さな数字ではありません。ただ地区ごとの差は大きく機械代の重さも使う面積で別物になります。農林水産省の白書と農研機構の実証結果と愛知県の防除試験をたどると、農業の機械化が効く場面と効かない場面がはっきり分かれました。

扱うのは、担い手の減り方と自動操舵とドローンの実力と労働時間と機械費の実測、そして家庭菜園に持ち帰れる考え方です。
農業の機械化を象徴する、耕した土のそばに止まった大型トラクターの後輪タイヤ

農業の機械化が急がれる理由は担い手の減り方にある

担い手は25年で240万人から104万人に

農林水産省の白書によると、基幹的農業従事者は2000年の240万人から2025年の103万6千人へと半分未満になりました。

平均年齢は67.7歳です。2020年から0.1歳下がっただけで若返りと呼べる動きではありません。65歳以上は72万1千人で全体の69.6%を占めます。49歳以下は13万人にとどまります。

基幹的農業従事者は仕事として主に農業をしている人の数です。副業で畑を持つ人や家庭菜園は含まれません。農地が残るなら1人が受け持つ面積は増えます。田植えや防除のように時期が決まった作業では人手より先に時間が足りなくなります。機械化は楽をするためというより適期に作業を終えるための手当てです。

農業経営体の数も減っています。白書では2025年に83万6千経営体でした。2020年から22.3%の減少です。減っているのは個人経営体で23.3%減の79万6千。増えているのは団体経営体で4.9%増の4万です。農地が大きく減らないなら1経営体が受け持つ面積は広がっていきます。

機械化を後押しする国の仕組みが動き出した

スマート農業技術活用促進法は2024年10月1日に施行されました。

農業者が技術を使って生産方式を変える計画と事業者が技術を開発して供給する計画の2本立てです。認定を受けると金融や税制の特例が使えます。事業者向けの計画では農研機構の研究開発設備も使えるようになりました。

制度は道をならしただけで作業時間が実際に減ったかどうかは別の話です。

スマート農業の機械は何を肩代わりしているのか

自動操舵はハンドルを切る手間を機械に任せる

自動操舵は衛星測位で割り出した位置をもとにトラクターのハンドルを機械が切る仕組みです。

人が乗って旋回や作業機の操作を受け持つ形から無人で田んぼの中を走るロボットトラクターまで段階があります。農林水産省の安全性確保ガイドラインは無人で走るロボット農機の監視を目視によるものと遠隔によるものに分けています(2024年3月改正)。

農研機構の水田作の実証では令和元年度に採択された30地区のうち27地区が自動運転トラクターか自動操舵システムを入れました。自動水管理システムと並んで導入地区がいちばん多い技術でした。

実証30地区が入れた主な技術(令和元年度採択・水田作)
自動運転トラクター・自動操舵システム27地区
自動水管理システム27地区
食味・収量コンバイン26地区
直進キープ機能つき田植機24地区
ドローン(農薬散布)21地区
営農管理システム18地区
可変施肥システム12地区
リモコン式草刈機11地区
農林水産技術会議事務局・農研機構の資料より。30地区が複数の技術を組み合わせて導入しているため合計は30にならない。

1地区が入れたのは1台ではありません。耕す機械と植える機械と水を見る機械を組み合わせて1年の作業の山を削る設計です。

農業用ドローンは防除の時間を約半分にした

愛知県尾張農林水産事務所の2024年の検証では、水稲の防除にかかる全作業時間が1haあたりドローンで68分でした。乗用管理機は125分です。

畦に置かれた農業用ドローン(農薬散布用)のプロペラとノズル

散布そのものにかかる時間は乗用管理機のおよそ3分の1に縮みました。農薬や燃料の補給にかかる時間も大幅に減っています。ドローンはルートの作成に時間がかかります。それを含めても全体でほぼ2分の1です。

防除の効きは少し複雑です。カメムシ類の捕獲数と斑点米率に差はありませんでした。斑点米率はドローン区が0.23%で乗用管理機区が0.10%です。ウンカ類はドローン区のほうがやや多く残っています。株元に置いた感水紙には薬液があまり付いておらず、虫に薬が届かなかった可能性があると検証は書いています。

1回の試験の結果です。速さだけでドローンを選ばずに何の防除に使うのかを分けて考える必要があります。

導入費用は使う面積で逆転する

この検証の条件では散布機材の本体価格がドローン272万円で乗用管理機650万円でした。

それでも年間の固定費はドローンのほうが重くなります。耐用年数を5年と短く見て保険と定期点検に年23万円の維持費もかかるためです。散布する面積が増えると1haあたりの変動費が低いドローンが追いつきます。分かれ目は年43haでした。

愛知県の水稲防除の比較(供試機種・2024年掲載)
作業時間(1haあたり)ドローン 68分/乗用管理機 125分
本体価格ドローン 272万円/乗用管理機 650万円
年間の固定費ドローン 66万5千円/乗用管理機 50万1千円
ドローンが経済的に上回る面積年43ha以上
愛知県尾張農林水産事務所 農業改良普及課の検証(2024年4月掲載)。ほ場の区画や機種で結果は変わります。

検証のまとめはドローン1台あたり年40ha以上の利用が導入判断の目安になるというものです。ほ場の区画や機種によって面積は動くので他の地域では実情に合わせて計算し直すべきだとも書いています。損得を分けるのは機械の性能よりも1年に使い切る面積でした。

農業の機械化がもたらす効果と数字に出た課題

労働時間は平均9%減で約3割の地区が10%以上減った

農研機構の水田作の実証(令和元年度採択の30地区)で総労働時間の削減は平均9%でした。

2か年の実証で自動運転トラクターや自動操舵や直進キープ田植機やドローンなどを組み合わせた30地区の平均です。10%以上減ったのは約3割の地区で残りは10%未満にとどまりました。

差が出た場所は決まっています。総労働時間に占める割合が大きい耕起・代かきと田植えに自動運転トラクターと直進アシスト田植機をセットで入れた地区は、平均で約18%減りました。全部の作業を置き換えたのではなく春のいちばん忙しい山を削った格好です。

水田作30地区の実証結果(令和元年度採択・2か年)
総労働時間平均 9%減
10%以上減った地区約3割
耕起・代かきと田植えにセット導入平均 約18%減
単収平均 9%増
農林水産技術会議事務局・農研機構「令和元年度スマート農業実証プロジェクトの成果について(水田作)」(令和4年8月)。

浮いた時間の使い道が見える事例もあります。水稲23haの全面積をスマート化した経営体では水稲の総労働時間が28.8%減りました。水稲は2,500時間から1,800時間です。空いた時間はトマトの芽かきなどの管理に回しました。トマト部門の収入は422万円から612万円に増えています。

転作作物でも効果が出ています。水稲と大豆と枝豆をつくる大規模経営では、自動運転トラクターやドローンの導入で水稲と大豆の労働時間がそれぞれ約2〜3割減りました。大豆は作付面積が22%広がるなかで適期に作業でき、単収は10アールあたり173kgから195kgに伸びています。枝豆は10アールあたりの労働時間が32%減りました。水稲用の自動操舵システムを大豆や枝豆にも使い回せたのが効いています。

春の山を削るもうひとつの手に田植えそのものをなくす乾田直播があります。

単収は平均9%増で効いたのは機械より施肥の見直し

単収は各農場の平均で9%増えました。農研機構の資料によると単収が伸びたのは、センシングデータをもとにした可変施肥や品種構成と施肥設計の見直しを組み合わせた地区でした。

家族経営の大規模水田作の事例では収量コンバインのデータから低収量の圃場に重点的に施肥する設計へ変えました。10アールあたりの単収は471kgから517kgに増えました。全体の施肥量は5%減っています。

もっと極端な事例があります。経営面積160haの雇用型法人は新しい自動運転機を入れず、収量コンバインと営農管理システムだけを入れました。圃場ごとの収量データで品種と作型の配置を見直した結果、作況補正後の単収は10アールあたり422kgから467kgに増えました。

利益は10アールあたり4万7千円から6万5千円になりました。労働時間も9.1時間から8.5時間に減っています。農研機構は機械作業の体制が整った大規模法人なら、データ活用に必要な機器に絞った導入も有効だと整理しています。機械が増やしたのは作業の速さよりも圃場ごとの出来を知るためのデータでした。

導入前に見ておきたいのは機械費の重さ

先ほどの家族経営の事例では実証時にスマート農機を使った面積が5.1haと小さく機械費が高額になりました。

導入した機器が力を出し切る53haまで使う試算では機械費は慣行の2割増に収まります。収入増と人件費減が重なって10アールあたり1万円の利益増になるというのが農研機構の見立てです。この経営体は実証後も規模を広げて経営面積は107haになりました。

別の事例はこうはいきませんでした。小さな区画が多い中山間の集落営農法人は自動操舵農機とドローンで労働時間を27%減らしています。ところが機械・施設費は10アールあたり11.7千円から56.8千円に膨らみました。田植機とコンバインを隣の集落と共有しても50.0千円でした。利益は慣行の1万3,100円の黒字から1万3,200円の赤字になっています。

水稲とトマトの複合経営も同じ形でした。トマトの収入は増えたのに機械・施設費が増えて、経営全体の利益は558万円の黒字から148万円の赤字になりました。農研機構の考察は隣の経営体に貸す簡単な共有では効果が限られると指摘しています。ドローンのように使う時間が短い機器は賃借や受託サービスで済ませる。自動水管理は遠隔の圃場に絞る。機器ごとに稼働面積を見て絞り込む工夫を挙げています。

機械代そのものの重さは農機具の減価償却の記事で数字を出しました。

POINT
9%は平均で自分の経営に当てはまるとは限らない
約7割の地区では削減が10%に届きませんでした。労働時間27%減を出した中山間の事例も機械費の増え方が上回って赤字でした。機械が効くのは面積と使い方が機械の能力に合ったときです。

家庭菜園で取り入れたい機械化と取り入れなくていい機械化

ドローン防除が元を取れるのは年43haからでした。100坪(約3.3アール)の畑で同じ計算をすれば大型の機械はまず元を取れません。実証の数字から家庭菜園へ持ち帰れるのは機械の種類より選び方の物差しのほうです。

小さな畑に耕運機は要る?

畝が数本の畑なら鍬と鋤で足ります。

軍手をした手で小型耕運機のハンドルを握り家庭菜園の土を耕す手元

小型の耕運機が選択肢に入るのは毎シーズン全面を耕し直す前提の広さになってからです。収納場所と電池や燃料の管理も増えます。そもそも耕さない栽培なら出番がありません。不耕起栽培の考え方も合わせて見てください。

草刈りは先に電動化する価値がある

夏は草の伸びが早く畑の作業のなかでいちばん回数が多くなります。

家庭菜園の脇の芝の上に置かれたバッテリー式の草刈機の刃先

バッテリー式の草刈機はエンジン式のような燃料の保管や混合の手間がなく音も小さめです。回数が多い作業ほど準備の軽さがそのまま続けやすさになります。農研機構が機械費を抑える手として挙げたのはフルセットで買わずに機器を絞ることでした。草刈りのように回数が多い作業から機械にするのが筋です。

自動操舵の代わりは杭と紐

自動操舵が減らしているのは列のずれです。畑では2本の杭に張った紐が同じ仕事をします。

杭に張った白い紐に沿って畝をまっすぐに整える手元

紐を張ってから鍬を入れると畝の幅と通路が揃います。草取りと収穫の動線が決まり後の作業が楽になります。機械化の最新技術が減らしているのも結局はこの種類の手間でした。

畝ごとの収量を記録すると何が変わる?

次のシーズンの施肥や植え付けの判断が勘から数字に変わります。

収量コンバインがやっていたのは圃場ごとの収穫量を測って低収量の場所に施肥を寄せることでした。家庭菜園なら畝ごとの収穫量を量ってノートに書くだけで同じ材料が手に入ります。施肥や株間を変えた畝があれば並べて比べられます。機械を買う前にできるいちばん安い「スマート農業」です。

CHECK LIST 機械を足す前に確かめる3つ
1年に何回使うか数える:ドローンは年43haで損益が逆転しました。使う回数が少ないものは借りるほうが軽くなります
2回数が多い作業から機械にする:草刈りのように繰り返す作業ほど元が取れます
3耕さずに済む方法を先に試す:不耕起栽培なら耕運機は要りません

9%という平均を見て最初は小さいと感じました。春の山に絞った18%減や機械費が慣行の2割増に収まる53haという条件を読むと、効く場面が狭いぶん効く場所では確かに効く機械だと考え直しました。ただ中山間の事例で機械費が4倍を超えて赤字になった数字を見ると手放しで勧められる話でもありません。

ロボットトラクターの無人走行が小さな区画の畑でどこまで使えるかは今回の資料では確かめられていません。

参考・出典
※ 本記事は2026年11月3日時点で公表されている資料にもとづいています。実証結果は令和元年度採択の水田作30地区のものです。地域や作物で結果は変わります。
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