2026年9月29日(火)
JRAの国庫納付1,000億円|農業構造転換で何が変わるのか
競馬の収益から1,000億円が農業へ。公表資料を読むと数字の意味が見出しの印象と少し違いました。
JRAの国庫納付が農業の話として流れてきたとき私は競馬の利益がそのまま農家に配られる話だと思いました。実際は国に納めるお金が増え、その分だけ農業の当初予算を積み増せるようになったという順番です。

1,000億円と聞くと大きな政策に見えますが年に直すと250億円です。農林水産省が5年で見込む事業規模2.5兆円からすると一部にあたります。使い道は法律で決まっていて若手就農の支援は入っていませんでした。
数字の大きさに引っ張られると何を変えて何を変えない法律なのかが見えにくくなります。合意文書と参議院の調査資料を読むとこの法律が変えるものと変えないものがはっきり分かれていました。
JRAの国庫納付1,000億円は何を決めた法律なのか
JRAは令和8〜11事業年度の4年間に毎年250億円を追加で国庫に納めます。総額は1,000億円です。
毎年250億円を4年間上乗せして納める
この法律は2026年3月31日に成立し同日に公布と施行がありました(令和8年法律第10号)。JRAは従来の国庫納付に加えて特別積立金から各事業年度に250億円(1,000億円の4分の1)を納めます。特別積立金はJRAが利益の一部をためている積立金です。納めた分はここから減ります。
通常の納付は続きます。売得金の10%と剰余金の2分の1を納める従来の仕組みには手を付けません。上乗せだけを4年間の特例で決めた形です。競馬の制度そのものを変える法律ではありません。
使い道は法律にも書かれています。農地の区画拡大と共同利用施設の再編整備とスマート農業技術の開発・導入と輸出産地の育成です。事業ごとの配分額や採択の基準は法律では決まらず毎年の予算資料で確かめることになります。
通常の国庫納付と比べて規模はどのくらいか
毎年の上乗せ250億円は通常の国庫納付額の約7%にあたります。
私は最初もっと大きな話だと思っていました。実際は年間の通常納付の1割に満たない額を4年だけ足す形です。大型の新財源というより毎年少しずつ足す追加分に近い規模です。
農業構造転換集中対策の中でJRAの1,000億円が占める位置
農業構造転換集中対策は令和7〜11年度の5年間で事業規模2.5兆円程度です。国費ではおおむね1.3兆円でJRAの1,000億円はその約8%にあたります。
2.5兆円のうち1,000億円は約8%
政府が農業の構造転換を集中的に進めると決めたのは令和7〜11年度の初動5年間です。2024年6月の骨太の方針で打ち出され2025年4月の食料・農業・農村基本計画で具体化されました。
対象は4分野です。農地の大区画化と共同利用施設の再編集約とスマート農業技術の開発・導入と輸出産地の育成が並びます。令和8年度予算では集中対策に494億円が付き令和7年度補正予算には別に2,410億円が計上されました。
前年度からの増額分を4分野で足すと約251億円になりJRAの毎年250億円とほぼ重なります。財務大臣と農林水産大臣が2025年12月24日に交わした合意も、上乗せを当初予算に毎年250億円追加する財源と位置づけました。補正予算の2,410億円について合意文書は触れていません。
1.3兆円の5年計画のなかで1,000億円は全体を動かす原資というより当初予算の底上げ分です。1,000億円で農業が一変するという読み方は数字の上では無理があります。
令和12年度以降の財源はまだ決まっていない
JRAの上乗せは令和11年度で終わり令和12年度以降の財源は決まっていません。
2025年12月24日の合意はこの4年間を「臨時・特例の措置」と書いています。令和12年度以降は農林水産省が今回の国庫納付に代わる安定的な財源を確保するものとされました。令和12年度当初予算の編成までに具体的な策について結論を得る段取りです。
1,000億円は恒久の財源ではなく5年の集中期間のうち4年を支える橋のようなものです。橋の先に何があるのかは2029年末までに答えが出る宿題として残っています。
大区画化とスマート農業で畑の作業はどう変わるのか
農地の大区画化は平坦な農地で1ha以上の区画を基本にする方針で進められています。
大区画化の目標は「1ha以上の区画」と労働費の6割減
2025年11月に新しい土地改良長期計画が決まりました。大区画化などの基盤整備をした地区では令和11年度までに担い手の米づくりの労働費を現状より6割以上減らす目標です。
1haは100m四方の広さで家庭菜園の15㎡(3m×5m)の約670倍にあたります。区画が小さいと機械が旋回して出入りするたびに時間を取られます。あぜの草刈りも区画の数だけ増えるのが実情です。区画をつなげて広げれば同じ人数でこなせる面積が変わってきます。
大区画化を含む農業農村整備事業は令和8年度予算で3,365億円あります。集中対策の「農地の大区画化等」は166億円です。JRAの上乗せだけで大区画化が進むわけではなく既存の基盤整備の予算と並んで動くと読めます。
法人などの農業者が自分で区画を広げる場合を支える「大区画化等加速化支援事業」も新設されました。あぜを取り除く工事や暗渠排水を入れる簡易な基盤整備が対象です。令和8年度予算は5億円で令和7年度補正予算は25億円です。大がかりな土木工事を待たずに区画をつなぐ道が用意された形です。
スマート農業の活用面積を20%から50%へ
スマート農業技術を使う農地の割合は令和6年の約20%から令和12年度までに50%へ引き上げる目標です。
スマート農業はロボットやAI・IoTを使った農業で、自動運転のトラクターやセンサーによる生育環境の把握が含まれます。「スマート農業技術活用促進集中支援プログラム」には、令和8年度予算で185億円と令和7年度補正予算で529億円が付きました。
農家の目で見ると機械やセンサーが入っても土の状態と天気を見て決める判断は人に残ります。私はスマート農業を人の代わりというより人が足りない場所を埋める道具として受け止めています。
共同利用施設と輸出産地も対象に入っている
カントリーエレベーターや選果場のような共同利用施設は約7割が30年以上前に設置されたものです。
耐用年数は一般に30〜50年です。農業者が減ると施設の稼働率が下がり維持費の負担が重くなります。集中対策は老朽化した施設の再編集約を進めます。
新基本計画実装・農業構造転換支援事業では国庫補助率が基本50%です。自治体が助成を上乗せすれば国も同額を助成し最大58.3%まで上がります。輸出産地の育成も4分野の1つで政府は2030年までに農林水産物・食品の輸出額を5兆円にする目標を掲げています。
若手就農と法人参入は別の予算で動いている
JRAの1,000億円が支える農業構造転換集中対策の4分野に若手就農の支援は入っていません。
この法律を紹介する文章では若手就農や法人参入がJRAのお金の使い道のように並ぶことがあります。財源の枠組みを定めた法律と担い手を支える別の予算は分けて読む必要があります。
農業を担う人は5年で25%減った
2025年2月時点で個人経営体の基幹的農業従事者は102.1万人でした。5年前の136.3万人から25.1%減っています。平均年齢は67.6歳です。65歳以上が71.0万人を占め49歳以下は約13万人にとどまります(農林業センサス2025の概数値)。
農業経営体の数も82.8万で5年前の107.6万から23.0%減りました。農地は2025年に424万haで2000年の食料・農業・農村基本法の制定時より1割以上減っています。
新基本計画は農業分野の生産年齢人口に占める49歳以下の割合(令和6年は54.3%)を全産業並みの64.0%へ引き上げる目標も掲げています。
新規就農の支援は別枠で動いている
新規就農の支援は「新規就農者育成総合対策」で行われ令和8年度予算は104億円です。
就農準備資金と経営開始資金は令和8年度から年間150万円が165万円に引き上げられました。令和7年度補正予算にも54億円が付いています。
法人を含む外部の担い手の誘致は地域計画という枠組みで進みます。地域計画は全国18,894地区で作られました。ただ約3割の農地で将来の受け手が決まっていませんでした(2025年4月末時点)。誘致にかかる費用は令和8年度予算527億円の地域計画関連の支援に含まれています。
「稼げる農業」は分かりやすい言葉です。数字で確かめられるのは新基本計画の目標のほうです。令和12年度までに1経営体あたりの生産量を令和5年比で1.8倍にし、49歳以下の担い手数を現在の水準で維持する内容です。収入の目標ではなく生産量と担い手数の目標だという違いは読むときに区別しておきたいところです。
農地と担い手が減り続ければ食料の安定供給にも響きます。輸入が滞ったときの主食の話は有事の主食が芋である理由に書きました。
家庭菜園でできること|大区画化とスマート農業を小さく試す
今回の1,000億円は家庭菜園を対象にしていませんが大区画化とスマート農業の考え方は小さな畑でも試せます。

畑を広げなくても大区画化の考え方は使える?
使えます。大区画化の狙いは広げること自体ではなく細かく分かれた区画が生む手間を減らすことです。
小さな畑でも区画が細かいと作業の回数は増えます。畝ごとに幅も向きも違うと防虫ネットもマルチも畝ごとに切って合わせることになります。
畑を一から作る人は家庭菜園の始め方に道具と土づくりの基本をまとめています。
スマート農業は家庭菜園でも使える?
土壌水分計や温度計のような小さな道具なら家庭菜園でも使えます。
水やりの判断を勘から数字に置き換えられるのが利点です。毎回測る必要はありません。数字と土に触れた感覚を見比べる期間を作ると自分の畑の癖が分かってきます。
水やりのタイマーも家庭菜園で手に入るスマート農業の入口です。猛暑の週や留守にする日の水切れが心配なときに役立つ道具です。
記録を付けると効果が見えるのも強みです。水をやった日と土の湿り具合と収穫日をメモに残すだけでも来年の判断材料になります。

農業政策の数字はどこで確かめればいい?
農業政策の数字は農林水産省の予算ページと財務省の予算資料で確かめられます。
農水省は毎年12月に「農林水産関係予算概算決定の概要」を公表しています。事業ごとの金額と対象が並んでいて今回のような話題が出たときに一次情報へ戻る入口になります。国の農業構造転換の事業は担い手や産地が対象なので家庭菜園や市民農園の情報は自治体の案内を見るのが確実です。
最初は競馬の利益が農家に配られる話だと思っていました。読み終えて残ったのは次の理解です。1,000億円は農業を一変させる金額ではなく当初予算の底上げを4年間だけ支える財源で、5年目以降の財源は宿題のままです。
畑の大きさや作業を体で知りたい人には美園ファーマーズ倶楽部(MFC)の大人の農業体験があります。区画の広さも土の状態も実際に歩くと数字とは違う印象を受けます。
- 財務省・農林水産省「令和8年度以降の対応に関する合意」(2025年12月24日)
- 財務省「令和8年度農林水産関係予算について」
- 参議院『立法と調査』No.481「令和8年度農林水産関係予算のポイント」
- 農林水産省「令和8年度農林水産関係予算概算決定の概要」
- 日本中央競馬会「2024事業年度 事業報告書」
- 日本中央競馬会「国庫納付金」
- 国会法案解説「【閣法#11】JRAの特別積立金から4年で1000億円を国庫へ」(成立・施行日の確認)
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